
1. 回路構成と層構成の整合性をとる
多層プリント基板(Multi-layer PCB)の設計において、回路の構成(論理設計・機能ブロック)と、物理的な層構成(レイヤースタックアップ)を整合させることは、ノイズ低減・信号品質・放熱・量産性の観点から非常に重要です。
1-1 なぜ整合性が必要なのか?
- 信号の伝送品質を確保するため:
高速信号では信号層の直下にGNDプレーンを配置し、反射やインピーダンスの乱れを抑制します。
- 電磁ノイズの抑制:
信号とGNDが離れるとノイズ放射(EMI)やクロストークの原因になります
- 適切な電源供給:
GND層と電源層を近接させると、電源インピーダンスが下がり、安定した供給が可能になります。
1-2 代表的なレイヤースタックアップ構成
層構成 | 用途・特徴 |
2層基板 | 最もシンプル。高速信号には不向き。 |
4層基板 | 信号1/GND/電源/信号2。バランスが良く中速信号にも対応。 |
6層以上 | 信号/GND/信号/電源/GND/信号など。高速・高密度設計向き。 |
ポイント:信号層の隣には必ずGNDまたは電源層を配置することが重要です。
1-3 設計時の実践的なポイント
- 差動信号はGNDを挟む上下の層に配置しない。
- 電源層とGND層は近接配置。
- ビアは最小限にしてGNDプレーンを分断しない。
- GNDプレーンはなるべく分割しない。
1-4 推奨スタックアップ構成例(4層)
- Layer 1 (Top): Signal
- Layer 2: GND
- Layer 3: Power
- Layer 4 (Bottom): Signal
- → GNDとPowerを内層に配置することで信号層が安定し、ノイズと反射が低減されます。
1-5 整合性をとることで得られる効果
効果 | 詳細 |
高速信号の反射抑制 | GND近接によるインピーダンスの安定化 |
EMIの低減 | 信号ループ面積の最小化 |
電源安定性向上 | GND/電源間の低インピーダンス化 |
クロストークの抑制 | 信号干渉の低減 |
2. ノイズ源と被ノイズ部品の分離
電子機器においてノイズの発生とその影響を抑えるためには、「ノイズ源」と「被ノイズ部品」を物理的・電気的に分離することが重要です。基板設計では、適切なゾーニング、グランドの管理、配線の工夫などを行うことで、EMIやクロストークを抑制し、信頼性の高い製品を実現できます。
2-1 ノイズ源の代表例
ノイズ源となる要素 | 発生するノイズの種類 |
スイッチング電源IC | 高周波ノイズ、バーストノイズ |
モータドライバ、リレー | インダクティブノイズ(サージ) |
高速クロック回路(FPGA/MCU) | 高調波ノイズ、周期性ノイズ |
高速通信(USB, HDMI, LVDS) | 伝導ノイズ、放射ノイズ |
2-2 被ノイズ部品の代表例
被ノイズ性が高い要素 | 影響例 |
アナログ回路(ADC/DAC) | 電圧精度低下、誤動作 |
センサー入力部 | 誤検出、感度劣化 |
通信ライン(UART、CAN、I²C) | データ破損、通信エラー |
高インピーダンス回路 | 外来ノイズの取り込み |
2-3 設計時の分離方法
- ノイズ源とアナログ信号部をゾーン分けして十分な距離を空けて配置する
- アナログGNDとデジタルGNDを分け、1点で接続する
- フィルタ(LCフィルタ、フェライトビーズなど)を適切に配置する
- ノイズ源の配線とアナログ信号配線が交差・並走しないようにする
2-4 チェックリスト
項目 | 確認内容 |
ノイズ源と被ノイズ部品の分離 | ゾーン分けされているか |
GNDの分離と一点接地 | 適切に接続されているか |
フィルタ素子の使用 | 適切な位置にあるか |
配線の交差回避 | クロストークの懸念はないか |
まとめ

原則 | 効果 |
ノイズ源と被ノイズ部品をゾーン分離 | EMIリスクを最小化 |
GND・電源の管理を厳格に | GND電位の揺れ抑制 |
フィルタと配置の最適化 | 信号品質と信頼性の確保 |

3. 配線の引き回しとクロストーク対策
プリント基板(PCB)の配線設計において、信号線や電源ラインの引き回しは、ノイズ、信号劣化、誤動作などの原因となります。特に、信号線同士の間で発生する「クロストーク」は高速信号や高感度アナログ信号に悪影響を及ぼすため、適切な対策が不可欠です。
3-1 クロストークとは
クロストークとは、ある信号線の電磁誘導や静電結合によって、隣接する別の信号線に不要な信号(ノイズ)が伝播する現象です。高速デジタル信号や長距離の平行配線で特に発生しやすく、信号品質の低下や通信エラー、アナログ測定誤差の原因となります。
3-2 クロストークが発生しやすい条件
条件 | 内容 |
長い並走配線 | 数cm以上の平行配線で電磁結合が強くなる |
配線間の距離が近い | トレース同士の間隔が狭いと誘導が大きくなる |
グランドのリターンパスが不適切 | リターン電流が遠回りすると干渉が増大 |
多層基板での上下層並走 | 異なる層の配線でもクロストークが生じる |
3-3 配線設計における対策
- 高速信号線やアナログ信号線は、できる限り他の線と並走させない
- 並走距離を短くし、できるだけ直交させる
- 信号線の近くにGND配線を通してリターンパスを最短化
- 差動信号線(LVDS、RS-485など)はペアでの整合を保つ
- シールド配線やガードトレースを活用する
- 配線幅と間隔を適切に設定し、設計ルールに従う
3-4 クロストーク対策の具体例
- 隣接する高速信号線同士の間にGNDラインを挿入することで、遮蔽効果を得る
- アナログ信号線とデジタル信号線のレイヤーを分離し、重ならないようにする
- 長いバスラインには終端抵抗を設け、反射による影響を抑える
3-5 チェックリスト
項目 | 確認内容 |
配線の並走回避 | 高速/アナログ信号の並走距離は最小化されているか |
グランドの配置 | リターンパスは信号線に沿って配置されているか |
差動信号の整合 | 差動ペアの長さと間隔は揃っているか |
終端処理 | バスや高速信号には終端抵抗があるか |
まとめ
原則 | 効果 |
配線の並走を避ける | クロストークの抑制 |
リターンパスの確保 | 信号の安定化 |
シールドやガード配線の活用 | 電磁干渉の軽減 |
4. 電源とGNDのレイアウト最適化
プリント基板設計において、電源とGNDのレイアウトは回路全体の安定動作を左右する重要な要素です。ノイズ、電圧降下、信号の不整合、発振など多くの問題は、不適切な電源・GND設計に起因します。

4-1 電源とGNDの役割
- 電源は各回路ブロックに安定した電圧を供給します。
- GNDは信号の基準電位(リファレンス)を提供し、リターン電流の通り道でもあります。
4-2 GNDのレイアウト最適化
- GNDプレーンを広く・連続的に配置し、分断を避ける
- 高速信号の直下にGNDプレーンを配置し、リターンパスを最短経路にする
- アナログGNDとデジタルGNDは1点接続(スター接続)で管理する
- 多層基板では1層をGNDプレーン専用に割り当てるのが理想的
4-3 電源のレイアウト最適化
・電源トレースはなるべく短く、太く引いて電圧降下を抑制
・電源ラインにはデカップリングコンデンサをできるだけICの近くに配置
・複数の電源電圧を使用する場合は、スイッチングノイズが混入しないように配慮
・電源層(パワープレーン)を設け、安定した供給と低インピーダンス化を図る
4-4 具体的な設計テクニック
- GNDプレーンにスリットを入れない(電流の流れが制限される)
- アナログ回路のGNDには信号の帰還点も含め、1点接地を意識する
- 電源トレースの隣にGNDトレースを配置することでループ面積を縮小
- デカップリングコンデンサは0.1μFと10μFの2段構成で高周波と低周波を分離
4-5 レイアウト設計時のチェックポイント
項目 | 確認内容 |
GNDプレーン | 断絶や細くなった箇所はないか |
電源トレース | 各ICに十分な太さで供給されているか |
デカップリングC | IC直近に配置されているか |
GNDの統一 | アナログGNDとデジタルGNDの分離が適切か |
まとめ
原則 | 効果 |
GNDプレーンの確保 | ノイズ耐性の向上 |
短く太い電源配線 | 電圧降下の防止 |
コンデンサの配置最適化 | 高周波ノイズの除去 |

5. 熱対策と部品配置の工夫
電子機器における熱対策は、信頼性や長寿命の確保に直結する重要な設計項目です。プリント基板(PCB)上の部品から発生する熱を効率よく逃がす工夫と、放熱を妨げない部品配置が求められます。
5-1 熱が与える影響
- 半導体部品の温度上昇による寿命短縮(10℃上昇で寿命が半減)
- 熱による性能劣化(誤動作、クロックの乱れ、抵抗値変動)
- ハンダ不良・基板の反り・熱膨張による破損リスク
5-2 熱対策の基本方針
- 発熱部品を集中させず、熱を分散配置
- 自然放熱・強制空冷・放熱板などの併用による放熱強化
- サーマルビアやGNDプレーンを使って熱を他層に逃がす
- 放熱パッドを介した筐体・ヒートシンクへの伝熱
5-3 部品配置における工夫
- 発熱の大きい電源ICやMOSFETは基板端や空間の広い場所に配置
- 高温部品の周囲に温度依存性の高い部品(コンデンサ、センサ等)を配置しない
- 空気の流れ(通風方向)を意識して、熱がこもらないよう配慮
- 表面実装部品(SMD)の発熱は、裏面パターンにも逃がす設計とする
5-4 熱解析とシミュレーション
CADツールの熱解析機能を活用し、部品配置やヒートシンクの効果を事前に検証できます。
また、発熱量や周囲温度を考慮した熱設計計算も重要です。
5-5 具体的対策例
- QFNパッケージの下にGNDパッド+ビアアレイで放熱
- 高出力抵抗(≥1W)は銅箔面積を大きくとり、ヒートスプレッダと一体化
- アルミ筐体にFETを熱伝導パッド経由で接触させる構造にする
5-6 レイアウト時のチェックリスト
項目 | 確認内容 |
発熱部品の配置 | 他部品と十分な距離をとっているか |
放熱パッド設計 | ビアやGND層に接続して熱逃がしを行っているか |
通風経路の確保 | 空気の流れを妨げる配置になっていないか |
筐体接触設計 | ヒートシンクや筐体と熱結合されているか |
まとめ
対策 | 期待される効果 |
放熱経路の確保 | 部品温度の低減、信頼性の向上 |
温度依存部品の分離配置 | 測定精度の確保、誤動作防止 |
熱解析の実施 | 事前の熱問題の発見と対処 |
6.製造性とメンテナンス性の確保
プリント基板(PCB)の設計において、製造性とメンテナンス性の両立は、製品の品質・コスト・寿命に大きな影響を及ぼします。設計段階から量産工程や現場での点検作業を意識することで、トラブルの防止や生産効率の向上が可能になります。
6-1 製造性向上のための設計配慮
- 部品の向きを統一(チップ部品の実装方向をそろえる)
- 検査用パッドやテストポイントの配置
- 実装時の部品クリアランス確保(例:0603サイズ部品間は≥0.3mm)
- シルク印刷による部品番号や極性表示の明確化
- 製造公差を考慮したフットプリント設計(はんだブリッジや浮きの防止)
6-2 メンテナンス性の確保
- コネクタやヒューズなど交換部品は手が届きやすい場所に配置
- 絶縁距離を考慮して高電圧部は区画化
- リワーク可能な部品(コネクタ・大形IC)は周囲にスペースを設ける
- 回路ブロック単位でレイアウトし、故障解析を容易にする
- ドキュメント化(回路図、部品配置図)によるメンテナンス支援
6-3 検査容易性の確保
- ICT(インサーキットテスト)やファンクションテストを想定したパッド配置
- プロービングしやすいパッド径・位置に設計(φ0.8〜1.0mm推奨)
- 電源・GNDラインへのテストポイント追加
- LEDや表示部品による状態確認の仕組み(通電・異常検知等)
6-4 チェックリスト(製造・保守観点)
項目 | 確認内容 |
部品実装方向 | すべての同一部品が同一方向に並んでいるか |
メンテナンス性 | 交換部品に手が届くクリアランスがあるか |
検査パッド配置 | 信号・電源・GNDに測定パッドが設けられているか |
シルク印刷 | 部品番号・極性マークが正確に記載されているか |
まとめ
配慮事項 | 効果 |
部品の向き統一 | 実装ミス・工数削減 |
パッドの配置最適化 | 検査精度・保守性の向上 |
明確な印刷情報 | 現場作業者の負担軽減 |
回路ブロック化 | トラブル箇所の特定が容易 |