IoT(Internet of Things)とは、インターネットを通じて様々なデバイスが接続され、データを収集・共有する技術や概念を指し示します。IoTデバイスには各種広範囲にわたるものが含まれます。今回はその中で、重要であるセキュリティ設計について記載致します。
1.IoTの普及とセキュリティリスク
1-1 IoTの普及がもたらす利便性
IoTの普及によって様々な利便性があります。
①家庭での利便性
スマートホームでは、スマートスピーカを通じて照明やエアコンを音声で操作できるようになって生活が快適になります。
②産業での効率化
工場や物流では、センサーが設備や在庫の状態をリアルタイムで監視し、生産効率が向上します。
③医療の進化
医療の分野では、患者さんの健康状態を遠隔監視モニタリングすることで迅速な対応が可能になります。
1-2 IoTのセキュリティ課題
利便性が高まる一方でIoT特有のセキュリティリスクも急増しています。その背景には以下の要因があります。
①接続デバイスの爆発的な増加
IoTデバイスの数量は年々増加しています、2025年には400億台を超えると思われます。これに伴いネットワークのエントリーポイントが増加し、攻撃の対象となる機会が拡大しています。
②設計時のセキュリティ不足
IoTデバイスの多くは低コスト化や小型化を重視しているので、セキュリティ機能が不十分な状態で市場に出回る可能性が少なくありません。
③分散型の構造による脆弱性
IoTは多種多様なデバイスやプロトコルで構成されているので、一部のデバイスに脆弱性があると、システム全体が危険にさらされることがあります。
④継続的なセキュリティ管理の難しさ
IoTデバイスは長期間使用されることも多いので、ソフトウエアの更新やセキュリティパッチの適用が不完全な場合があります。
1-3 具体的なセキュリティリスクの事例
①スマートホームへの侵入
貧弱なパスワードや暗号化されていない通信経路を悪用して、スマートスピーカや監視カメラが乗っ取られる事案などがあります。
②産業用IoTの攻撃
工場のラインやロボットがハッキングされ、生産ラインが停止する事案などがあります。
③医療機器への攻撃
遠隔医療装置が不正アクセスを受け患者データの漏洩や、大規模なサービス攻撃が発生する事案などがあります。
1-4 リスクが及ぼす影響 これらのリスクにより、個人レベルではプライバシー侵害や経済損失が、企業レベルではブランド価値の低下や法的責任の発生可能性があります。さらに重要なインフラが攻撃されると社会全体に重大な影響を及ぼすこともあります。

2. IoT機器を取り巻く主要なセキュリティ脅威について
IoT機器は様々な用途や環境で活用されている一方でその特性や構造から多様なセキュリティ脅威にされられています。
2-1 認証情報の不正利用
① 内容
多くのIoTデバイスは出荷時の初期設定パスワード(例えば:admin)を使用しています。ユーザがパスワードを変更しないまま使用している場合に攻撃者が容易に侵入することができます。
② 影響
個人データの漏洩や不正アクセスによるデバイスの制御の乗っ取り。
乗っ取られたデバイスが他の攻撃に悪用されるリスクなどが挙げられます。
2-2 データ盗聴とプライバシー侵害
① 内容
IoT機器間の通信が暗号化されていない場合、攻撃が中間者攻撃(Man-in-the-Middle, MITM)を仕掛けてデータを盗み取られる可能性があります。
② 影響
利用者のプライバシー侵害や、盗まれたデータの不正利用(詐欺、身元盗用など)。
2-3 ファームウエアの改ざん
① 内容
IoTデバイスのファームウエアが脆弱で、匿名や整合性検証が不十分な場合攻撃者の改ざんによって不正動作を仕込むことが可能となります。
② 影響
デバイスの不正操作や、ネットワーク全体の安全性がそこなわれるリスクがあります。

2-4 分散型サービス妨害攻撃(DDoS)
①内容
攻撃者がIoTデバイスをボットネットとして組織しターゲットに対して大量のトラフィックを送り込みサービスをダウンさせる攻撃です。
②影響
サービス停止によって発生するビジネス損失や、攻撃元とされたIoTデバイス所有者の間接的なトラブルとなる影響があります。
*ボットネット:一般的にサイバー犯罪者がトロイの木馬やその他の悪意のあるプログラムを使用して乗っ取りを行った多数のゾンビの様なコンピュータで構成されるネットワークの事を示します。
2-5 物理的な攻撃
①内容
IoTデバイスは公共の場所やアクセスしやすい場所に設置されることが多く物理的な破壊や不正な改造の対象となりやすいです。
デバイス内部のデータや暗号鍵が抽出されるリスクがあります。
②影響
重要なデータの漏洩や、デバイスの不正使用による信頼性の低下などの影響があります。
2-6 ソフトウエアの脆弱性の悪用
①内容
IoTデバイスは設計時のセキュリティ対策が不十分なことが多いようでソフトウエアに脆弱性が残りやすい傾向があります。
②影響
データの漏洩やシステム全体の安全性の損失が上がられます。
3. セキュリティ設計の基本原則
IoTデバイスのセキュリティを高めるには、設計段階からリスクを考慮し適切な対策を取り入れる事が重要なことです。
3-1 セキュリティ・バイ・デザイン(Security by Design)
①内容
セキュリティは後付けではなく製品の設計段階から取り組む必要があります。
製品ライフサイクル全体(設計・開発・運用・廃棄)を通じて潜在的な脅威に対する対策を計画的に実施します。
②具体的な実践方法
・脅威モデリング:
製品がどの様な攻撃にさらされる可能性があるのかを分析し、設計段階で
対策計画を実施する。
・セキュリティ要件の定義:
安全性を確保するために必要な要件(例:暗号化通信・認証の強化)を明確化する。
・セキュリティテストの実施:
開発中から脆弱性テストを繰り返し実施する。
3-2 最小限の原則(Principle of Least Privilege)
①内容
デバイスやユーザに与える権限を必要最小限に抑える事で、攻撃成功時の被害範囲を限定的にします。
②具体的な実践方法
・アクセス制御の導入:
ユーザやデバイスがアクセス可能な範囲を制限する。
例:IoTセンサーがクライドにデータを送信する権限は持たせるが、他のデバイスを制御する権限は持たせない。
・分離設計:
システム内部の重要機能(例:データ保存・制御機能)を分離し不正アクセスを防ぐ。
3-3 暗号化技術の徹底
①内容
IoTデバイスが送受信するデータは暗号化されていないと盗聴や改ざんのリスクがありますので、暗号化技術を用いることでデータの安全性を高めます。
②方法(具体例)
・通信暗号化:
TLS(Transport Layer Security)やSSLを利用してデバイスとサーバ間の通信を保護します。
・データ保存の暗号化:
デバイスの保存データ(例えば:ユーザ情報やログデータ)もAESなどの暗号化方式で保護を行います。
・鍵管理の最適化:
暗号化の鍵は安全なストレージ(例:TPM・HSM)に保存を行う。
3-4 認証とアクセス制御の強化
①内容
IoTデバイスが不正アクセスされないよう認証手段を強化しアクセス制御を徹底します。
②具体的な実践方法
・多要素認証(MFA)
パスワードに加えワンタイムパスワード(OTP)やバイオメトリスク認証の利用。
・デバイス認証
IoTデバイス自体を認証する仕組みの導入。
・ロールバースアクセス制御(RBAC)
ユーザの役割に応じてアクセス権を制限します。
3-5 セキュリティアップデートの自動化
①内容
IoTデバイスは長期間使用されることが多く、運用中の脆弱性を修正するためにセキュリティパッチの適用が必要です。これを自動化することで最新化の状態を維持することができます。
②具体的な実践方法
・OTA(Over-the-Air)アップデート
デバイスが自動で最新のファームウエアをダウンロードし、インストールを行う仕組です。
・更新の検証
ダウンロードされたアップデートが正規のものであるか、署名で検証を行います。