所定のトルク(ねじりの強さ)でねじなどを締め付ける(又は緩める)ための作業工具と、締め付けられたねじのトルクを測定するための測定工具のうち、ドライバー状の形をしたものの総称をいいます。
1.トルクドライバー
トルクドライバーは、トルクレンチと比較して小さいトルクでねじを締め付ける際に用いられるトルク機器のことをいいます。一般的にドライバーを用いてねじを締め付けるような箇所でトルク管理が必要な場合に使用します。電子機器の組立や配線用コネクタの固定ネジにも締め付けトルクが指定(管理)されるようになり、トルクドライバーが必要とされる場面が増えてきています。機能・用途はトルクレンチと同じですが、構造は異なります。
トルクドライバーは主にねじに対して使用します、トルク能力も小さめになっています。トルクレンチでは20~500N・mのものが主力になりますが、トルクドライバーは最大のものでも20N・m程度になります。一方で、繊細なトルク管理ができ、10cN・m(0.1N・m)といった小さなトルクの測定も可能です。トルクレンチでは簡単に振り切ってしまうようなトルクでも、正確に締付け確認をすることが出来ます。
(*)cN(センチ ニュートン):1N=100cN、cm(センチ メータ)とm(メータ)と同じ関係です。
1-1トルクドライバーの種類
・空転式トルクドライバー
設定したトルク値にてネジなどを締めるドライバーです。
設定したトルク値に到達すればドライバーの機構にて自動的にクラッチ機構が作動して空転し設定以上のトルクで締めすぎる心配がありません。さらに、作業者による差が出にくいために各工程でのトルク管理が容易に行えます。
使用(管理する)するトルク値が一つではなく複数ある場合はこの空転式が作業用としては一般的です。一般的にはドライバーに付いているダイヤルなどでトルク値(空転するタイミング)を設定しますので、あらかじめこの作業時はメモリをXXに設定するなどを決めて作業を行います。
空転式には手動タイプと電動タイプがあります。
・傘形トルクドライバー(ダイヤル式・直読式とも言います)
締め付けたトルク値を直読できるメモリ板が付いています。左右にメモリが付いていて【締める】・【緩める】で測定します。用途としましては主に検査用や精密なトルク管理が必要な場合に用います。
置針も標準で付いているので、締め付けた後も締め付けたトルク値がわかる構造になっています。
トルクセンサーを使用して、トルク値を数値表示する様なデジタル式もあります。デジタル式の特徴としては
・表示部分をドライバー本体とは別置きにすることが可能
・パソコンなどに接続してデータの管理に等に利用することが可能
・設定したトルク値に達するとブザー音などでしらせることが可能
1-2トルクドライバーをなぜ使うのか
ネジはそのネジに対する適切な締め付けトルク値で締め付けを行わない様々な問題が発生致します。例えば
・ネジの「緩み」が発生する
締め付けが緩いと振動などでネジが緩みます。
力いっぱい締め付けたつもりでも締め付け不足の場合があります。
・ネジが切れる(壊れる)
例えば樹脂ネジの様に強度的に弱いネジを力いっぱい締め付けると簡単にネジが切れて(壊れる)しまします。
あまり力を加えたつもりがなくてもきつく締まっている場合があるます。
その為、緩まない【締め付け不足】、切れない(壊れない)【締め付け過多】にならない為にそのネジに最適なトルク(力)で誰が締め付け作業を行っても(正しく設定していれば)適切なトルクでネジ締めを行う為に「トルクドライバー」を使用します。
1-3トルクドライバー使用時の注意点
①ネジに合ったビットを選択すること
通常ビットは交換できる構造になっています。
トルクは管理されていてもそのトルクを正しくネジに伝達できなければいけません。
②指定のトルクを設定すること
この設定を正しく設定しないと意味がありません。
③ネジ穴・ビス・トルクドライバーは一直線上になる様にすること
この時、ビスとビス穴がズレていたり、曲がっていると正しく締め付けが出来ないだけでなく、ネジやネジ穴を潰してしまします。
④空転するまで締め付けをおこなうこと(タイプによりますが)
この時、ドライバーはしっかりとビスを抑える事が重要です。
(ビスを舐めない様に注意します。ビスとビットが合っていないとこの時ビスを正しく回すことができず、ビスを痛めてしまいます。)
タイプによっては、測定値を目視で確認やブザー音がします。
⑤定期的にトルク値が正しいか校正を行うこと
トルクドライバーに限らず計測機器は定期的にこの校正作業を行い、実際に行った作業が正しい値(基準値内)で行っているのかの確認する作業です。
2.トルクとは
トルク(英語:ではtorque)とは力学において、ある固定された回転軸の中心にはたらく、回転軸の周りの力のモーメントのことを言います。一般的には「ねじりの強さ」として表されます。力矩、ねじりモーメントとも言います。
「回転軸からの距離×回転させようとする力」で計算でき、これを公式で表すと、
N=r×F
N:トルク[N・m]
r: 距離 [m]
F: 力 [N]
と、なります。
また、トルクの単位は、kgf・m(キログラム・メートル)でも表され、
N・mをkgf・mに換算すると、1N・m=0.10197kgf・m
Kgf・mをN・mに換算すると、1kgf・m=9.8067N・m
となります。
トルクの単位は Kgf・m(キログラム・メートル)の表記も紹介しましたが、N・m(ニュートン・メータ)を使うのが基本です。
(*)1993年以前はkgf・mやkgfという単位を使用していましたが、1993年以降、kgf⇒【N(ニュートン)】の単位に統一されました。
トルクを計測する装置を「トルク計」といい、非回転型の歪ゲージ式、回転型の磁歪式、歪ゲージ式などがあります。トルクには、静的トルクと動的トルクがあり、目的によってどちらを計測するかをあらかじめ決めておく必要があります。また、トルクは、タイヤのナットの締め付けトルクなどで知られていますが、自動車のエンジン(モータ)やコンプレッサ、エレベーターなど、さまざまな場所で使用されています。
(*)磁歪式: 磁歪式変位センサはWiedemann効果による磁歪現象を応用した工業用変位センサです。 センサプローブに沿って無接触で移動するマグネットによって磁歪線の上に「ねじり歪み」を発生させ、 その歪みの伝播速度を測定することによって位置を検出できるアブソリュート方式の高精度変位センサです。<簡単に言いますと磁歪現象という磁気の現象を利用した磁気センサです。>
(*)静的トルク(静トルク):手動(手締め)でゆっくりと締め付ける状態
(*)動的トルク(動トルク):例えば、電動ドライバーなどの様に回転速度をつけて締め付ける状態
2-1トルクの計算
トルク計算の概念は回転軸の距離(長さ)x質量(力=モーメント)で計算します。
例)2mの距離(位置)に1Kgの質量を加えると回転軸にかかるトルクは
図に示す通りで 2m x 1kg = 2kgf・m となります。
N・m(ニュートン・メータ)にすると 19.6134N・m で約20N・m となります。
【半径 x 力 = トルク】という事です。
例では2mでしたが、これが0.5mで同じトルクを回転軸に加えるとすると必要な質量は
19.613N・m ÷ 0.5m =39.226N(約4kg)となり
約40N(約4kg)の力が必要になります。
同じ力(質量)でも長さが変わればトルクの値は変わります、必要なトルクを効率よく加える事ができる長さの道具を選択する事でネジ締めが正しくできるかと思います。