トルクは「ねじる力」や「回す力」の事を言います。例を挙げますと、ドアノブを回すときに、手でドアノブをねじる力がトルクです。
1.トルクの概要
トルクとは物体を回転させる力の大きさを表す物理量です。具体的にはある点を中心に物体を回転させる際その回転のしやすさを示します。トルクは力と力が作用する点から回転中心までの距離(モーメントアーム)の積で計算されます。
トルクの計算式は次のとおりになります。
トルク(τ)=力(F)×モーメントアーム(r)・・・・・式1
・単位はニュートンメートル(Nm)で表します。
・力(F):回転させるために加えられる力。
・モーメントアーム(r):回転の中心から力が加えられる点までの距離。
トルクの大きさが大きいほど物体を回転させる力がつい良いことを意味します。トルクは車のエンジンや機械などで重要な概念であり回転力の効率や性能を評価するのに使われます。
2.トルクの単位について
トルクの単位には従来の単位と1993年に施工された新計量法によるものがあります。これらは使用される物理量や単位系が異なるため混乱することがありますが、従来の単位と新計量法による単位の違いについて説明いたします。
2-1 従来のトルク単位
従来日本で使われていたトルクの単位は「キログラム・メートル(kgf・m)です。この単位は重力の影響を考慮した力の単位として使われていました。具体的には1kgfは地球上で1kgの質量が重力によって受ける力に相当すます。
<キログラム・フォース・メートル(kgf・m)>
①1kgf・mは1kgfの力が1メートルの距離で回転中心に作用した時の
トルクを表します。
②kgf(キログラム・フォース)
は地球上で1kgの質量が受ける重力に相当し、これは約9.80665ニュートン(N)になります。
2-2 新軽量法によるトルク単位
現在の計量法では国際単位系(SI)に基づいた単位を使用することが定めら
られています。トルクの場合ニュートン・メートル(N-m)が標準的な単位です。この単位は力の単位としてニュートン(N)を使用し、回転の半径はメートル(m)です。
<ニュートン・メートル(N-m)>
①1N-mは1ニュートンの力が1メートルの距離で回転中心に作用した時の
トルクを表します。
②1Nは質量1kgの物体に1m/s²の加速度を生じさせるために必要な力です。
2-3 従来単位と新単位の換算
従来の「キログラム・メートル(kgf・m)」と新しい「ニュートン・メートル(N・m)」は次の換算式になります。
1kgf・m = 9.80665N・m ・・・・・・式2
つまり 1kgf・m は約9.8N・mに相当します。これは 1kgfが9.8Nに相当するためです。
2-4 実際の業務での影響
新計量法では計量法に従い国際単位系(SI単位)に基づく「N・m」を使用することが法的要求です。工業分野や機械設計では、トルクを表す際には「N·m」が一般的に使用されています。ただし、古い資料や従来の業界慣習では「kgf·m」が使われていることもあり、特に古い装置の取扱説明書などでは注意が必要です。
①従来の単位:キログラム・メートル(kgf・m)
②新計量法の単位:ニュートン・メートル(Nm)
③新計量法に基づくトルクの標準単位は「N・m」です。従来の単位を使用する場合は適切な換算が必要となります。 (2-3項の 式2 になります)
3.適正な締め付けトルクについて
適正な締め付けトルクとは、ボルトやナットを締める際に適切な軸力を発生させるために必要なトルク(回転力)のことです。ボルト締め付けトルクが適正でないと、部品がゆるんだり・ボルトが破損したりするリスクがあります。適正なトルクを確保することは接合部の安全性と耐久性を維持するために非常に重要なことです。
3-1 適正な締め付けトルクの重要性
①緩み防止:
適切なトルクで締め付けられたボルトは振動や衝撃に対して十分な抵抗力を持ち、接合部が緩むことを防ぎます。
②部品の破損防止:
トルクが過大であるとボルトが過度に伸びて破断や、部品に損傷を与える可能性があります。逆にトルクが不足していると十分な締結力が得られず接合部が緩む原因になります。
③均等な締め付け力:
複数のボルトを使用して部品を締結する場合適切なトルクで均等に締め付けることにより部品のゆがみや不均等な力の集中を防ぎます。
3-2 適正な締め付けトルクの決定要素
適正な締め付けトルクはボルトの材質やサイズ使用環境に応じて異なります。
①ボルトの材質:
ステンレス・炭素鋼・チタン・など異なる材質のボルトは異なる締め付けトルクが必要となります。
②ボルトのサイズ:
ボルト径が大きいほど必要なトルクも大きくなります。一般に大きいボルトほど強力な軸力を発生させるためより大きなトルクが必要です。
③摩擦係数:
ボルトとナットの間に働く摩擦は、トルクに影響します。潤滑油を使用するかどうか、表面の状態などが摩擦係数を変化させます。潤滑されていない状態だと摩擦が増えトルクの一部が摩擦に消費されます。
④使用環境:
ボルトが使用される環境(高温・低温・腐食など)により適切なトルクが異なる場合があります。
3-3 締め付けトルクの参考表
一般的に使用されるボルトにサイズごとの締め付けトルクの目安は次のようになります。(一般的なボルト・ビスの場合)
ボルトサイズ(mm) | 締め付けトルク(Nm) |
M3 | 0.63 |
M4 | 1.5 |
M5 | 3 |
M6 | 5.2 |
M8 | 12.5 |
M10 | 24.5 |
M12 | 42 |
この表は一般的な目安となり実際のトルク値は材質や使用状況によってことなりますので、ボルトメーカや設計仕様書などに従うのが一般的です。
3-4 締め付けトルクを正確に測る方法
①トルクレンチ:
締め付けトルクを正確に測定するための工具です。設定したトルクで締め付けを行うとカチッという音やクリック感などで作業者に知らせてくれます。
②トルク管理:
トルク管理を行う際はボルトやナットを均等に締め付けることが重要です。特に複数のボルトで部品を締め付ける場合は、対角線線上に順番に締め付けることで均一な力を保つことが可能となります。
※適正な締め付けトルクで締結を行うことは接合部の安全性・長寿命化を確保するために重要なことです。適正なトルクはボルド・ネジのサイズ・材質・使用環境に応じて変化しますので、適切なトルク値にてトルクレンチなどを用いて正確に測定(締結)を行うことが一般的です。
※(補足)ボルトの軸力:
ボルトの軸力とはボルトを締めた際にその軸方向に発生する力のことをいいます。具体的にはボルトを緩めるとナットやボルトの頭部が接触面を引き寄せボルト自体が引っ張られる状態になります。この引張力がボルトの軸力です。
①締結力:
ボルトを締めると軸方向に引っ張られる力が生じます。この力は接合部を強く押し付ける力(締結力)となります。
②トルクとの関係:
ボルトを締めるときに通常レンチなどでトルク(回転させる力)をかけます。このトルクによりボルトが伸びて軸力が生じます。適切なトルクで締め付けることで適切な軸力を確保します。
③軸力の重要性:
軸力は接合部の安定性に関わります。適切な軸力がかかっていないと接合部が緩んだり・ボルトが破損したりする可能性があります。一方で過大な軸力はボルトが過度に伸びて破断する原因になります。
④軸力の計算:
ボルトの軸力はトルクと摩擦係数・ボルトの直径などによって決まります。一般的な軸力の計算式は式3 になります。
F = T/(k・d) ・・・・・式3
F:軸力
T:トルク
k:摩擦係数
d:ボルトの直径
ボルトの軸力は適切な締結を行い、機械や構造物の安全性を確保するために非常に重要です。