
1. インバータ制御の基礎知識
1-1 インバータとは
インバータ(Inverter)とは直流電力(DC)を交流電力(AC)に変換する装置のことを言います。特にモータの回転制御のために用いられる場合インバータは電圧や周波数を変化させることでモータの速度やトルクを自在に制御しています。
主な用途:
・産業用機械のモータ制御(NC機器、コンベア・クレーン・ポンプなど)
・HVAC(空調システム)のファン・送風機制御
・エレベータやエスカレータの速度制御
・電気自動車(EV)や鉄道車両の駆動システム
1-2 基本構造
インバータは主に次の構成回路から出来ています
①整流回路(AC->DC変換)
交流電源(AC)を整流ダイオードやブリッジ回路を用いて直流電源(DC)に変換する回路です。
②平滑回路(直流電圧の安定化)
整流回路で得られた直流は、コンデンサーなどの平滑回路を用いて電圧変動を推さえた安定した直流電力に変換する回路です。
③インバータ回路(DC->AC変換)
パワー半導体素子(IGBT、MOSFET、SiC)を用いて直流電力を交流電力に変換します。この際交流の周波数や電圧を調整することでモータの回転数やトルクを制御します。
1-3 動作原理
インバータの基本動作はパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)制御を利用した周波数変換です。
①パルス幅変調(PWM)
PWM制御は直流電圧をON/OFFする時間(デューティ比)を変化させて、疑似的に交流電圧(波形)に変換する記述です。 例えばモータに供給する電圧を連続的に変化させるのではなく、高速でON/OFFを行うことで、平均的に出力電圧を制御しています。
PWMのメリット:
・電圧・周波数を柔軟に調整できる
・効率が高く、省エネルギー
・モータへの負担が少ない
②出力周波数の可変
インバータは、PWM制御を活用して出力周波数を可変することでモータの回転数を制御します。例えば三相誘導モータの場合の回転数(N)は次の関係式で求められます。
120xf
N=――――― ・・・・ 式1
P
N:回転速度(rpm)
f:電源周波数(Hz)
P:モータの極数
この式からもお分かりの様に周波数fを変化することで、モータの回転数を自在に制御することができます。
1-4 制御方式
インバータにはいくつかの代表的な制御方式があります。
①V/f制御(スカラー制御)
電圧(V)と周波数(f)を一定の比率で変化させる制御方式です。
・構造が簡単で低コスト
・軽負荷時の省エネルギー効果が高い
・低速域ではトルクが低下しやすい
②ベクトル制御(磁束制御)
モータ内部の磁束をリアルタイムで演算し、最適な電圧・周波数を供給する制御方式です。
・低速域でも高いトルクを発生
・高精度は速度、位置制御が可能
・高速な演算処理が必要なため高コスト
③ダイレクトトルク制御(DTC)
モータのトルクを直接制御する方式でレスポンスが速い制御方式です。
・高精度かつ応答性が高い
・制御アルゴリズムが複雑
1-5 使用されるパワー半導体素子
インバータは高速で電圧をON/OFF制御を行う半導体素子を使用します。代表的な素子は次の様なものがあります。
・IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ):
高電圧・大電流に対応し、産業用途のインバータに多用される
・MOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ):
低電圧・高周波スイッチングに適し、小型インバータ向け
・SiC(炭化ケイ素):
高耐圧・低損失・高周波動作が可能で、次世代の高効率インバータに使用
1-6 メッリトと課題
①メッリト
・省エネルギー:必要な電力を供給し無駄な電力消費を抑えることが可能
・ソフトスタート、スフとストップ:衝撃を抑え機械への負担を軽減が可能
・精密制御:モータの速度やトルクを細かく制御することが可能
②課題
・高調波ノイズ:インバータのスイッチングによる電源系統にノイズが発生します。

2.モータのエネルギー効率向上の仕組み
2-1 モータのエネルギー損失と効率向上の必要性
モータは電気エネルギーを機械エネルギーに変換する装置ですが、その過程で様々なエネルギー損失が発生します。損失を最小限に抑えることでより効率的な制御が可能となります。
モータのエネルギー損失の種類(モータのエネルギー損失の種類)
・損失(コア損)
内容:磁束の変化によるヒステリシス損失と渦電流損失
対策:板厚の薄い電磁広範の採用、SiCインバータ
・損失(電気抵抗損失)
内容:コイルの電気抵抗によるジュール熱損失
対策:高効率巻線、抵抗好材料
・機械損
内容:軸受、冷却ファンによる摩擦損失
対策:高精度軸受の採用、潤滑技術
・漏れ損
内容:モータ内部で発生する電磁電気的な損失
対策:適切な巻線設計
・負荷損
内容:過負荷や部分負荷での運転による損失
対策:インバータによる最適制御
特に鉄損と銅損がモータの主な損失となり、これらを抑えることでエネルギー効率向上が可能となります。
2-2インバータ制御によるエネルギー効率向上の仕組み
インバータ制御はモータ運転状態に合わせて電圧と周波数を最適化することでエネルギー効率を向上させる役割を担っています。
①可変速度制御による負荷最適化
従来のモータは商用電源(50Hz/60Hz)で定速運転するため、負荷が小さい場合でも余分なエネルギー消費していましたが、インバータを使うことで負荷に応じた適切な運転が可能となりエネルギー消費を削減可能となります。
②力率改善によるエネルギーロス削減
インバータを使うと、モータの力率(Power Factor,PF)を向上させることができます。
力率とは?
力率は供給された電力のうち実際に利用された電力の割合をいいます。
有効電力(W)
力率=―――――――――― ・・・・式2
皮相電力(VA)
力率が低いと無駄な無効電力が発生し設備全体の効率が下がります。
インバータは無効電力を制御し、電力使用効率を向上させることで電力料金の削減にも貢献することが可能となります。
3.産業機械やHVACシステムへの応用
インバータ制御は様々な分野で活用されています。具体的な例になります。
3-1 産業機械:
・コンベア:
製品の搬送速度を柔軟に制御することで生産効率の向上と省エネルギーの両立を可能なります。
・クレーン・ホイスト:
荷重に応じた速度制御やブレーキ制御によって安全性と省エネルギーの実現を可能となります。
3-2 HVACシステム(空調設備)
・送風機やポンプ:
空調負荷の変化に応じてモータ速度を制御しエネルギー消費を制御します。
・冷却塔:
ファンの回転数を制御することで必要最小限のエネルギーで効率的に冷却を行います。
・チラー:
負荷に応じた冷媒の流量調整によって、電力消費を抑える事が可能となります。
これらの事で、商業施設や工業の運用コスト削減に貢献が可能となります。
4.環境規制への対応とエコ設計のポイント
近年環境規制の強化によってエネルギー効率の向上やCO2排出量削減が求められています。インバータ制御はこの様なニーズに応える技術となります。
4-1 環境規制への対応
・欧州指令:
機器のエネルギー効率基準を満たすことが求められ、インバータを用いた高効率システムが注目されています。
・電力ピーク削減:
再生可能エネルギーとの組み合わせでピークシフトや需要応答(DR)に対応が可能です。
4-2 エコ設計のポイント
・エネルギーマネージメントの導入:
スステム全体でエネルギー使用状況を把握し効率的に制御し運用します。
・長寿命設計:
部品の摩耗や熱劣化を抑える設計により、ライフサイクル全体で環境負荷を低減させます。
・再生可能エネルギーとの連携:
太陽光や風力発電と連動するインバータシステムで、カーボンニュートラルを実現します。
インバータ制御は、エネルギー効率の向上と環境負荷の低減を同時に実現できる技術です。特に産業機械や空調システムへの適用では大きな省エネルギー効果が期待され、環境規制への対応にも役立ちます。効率的なエネルギー運用とエコ設計を進めることで、持続可能な社会づくりに貢献します。