車載イーサネットは、自動車内の電子機器間でデータを送受信するためのネットワーク技術です。イーサネットは、通常はオフィスや家庭などのネットワークで使用される通信技術ですが、自動車産業でも利用されるようになっています。
1.概要
車載イーサネットは、自動車内のデバイス間で高速かつ効率的なデータ通信を実現する技術です。従来のCANバスやLINなどのネットワークに比べ、イーサネットは高帯域幅と低遅延を提供し、複雑なデータやメディアコンテンツのデータ送受信に適しています。特に、自動運転やコネクテッドカーのような先進的な機能を持つ車両では、大量のセンサーデータや高解像度の映像データをリアルタイムで処理する必要があり、車載イーサネットはその基盤となる重要な技術です。
自動車業界では、車載イーサネットの標準化が進んでおり、数多くのメーカーがこの技術を採用しています。イーサネットは、車内のエンターテインメントシステム・ナビゲーション・運転支援システムなどのさまざまなアプリケーションに対応可能です。また、車載イーサネットは車両の診断やソフトウェアのアップデートなど、メンテナンスの効率化にも貢献しています。
(*)コネクテッドカー:
コネクテッドカーとは、簡単に言いますと「常時ネット接続され、最新の道路状態を取得して最適なルートを算出したり、車両にトラブルが発生した際にしかるべきところに連絡してくれたりする機能を搭載した車」の事を言います。
(*)CAN:
CAN(Controller Area Network)は1986年に公式に発表された通信規格です。 従来の通信規格に比べ配線が少なく、スマートなネットワークを構築するため、軽量化やコスト削減できるメリットがあります。信頼性や確実性が高いため、車ではエンジン・ブレーキ・ミッションといった根幹部分に使用されています。自動車業界以外でも様々な分野で導入されていますが、通信速度は最大1Mbpsであり、画像処理といった大容量データ向きではありません。
(*)LIN:
LIN(Local Interconnect Network)は1999年に登場した通信規格です。通信速度は最大20kbpsと低速ですが、CANより低コストで導入ができます。信頼性の高いCANを必要とするような自動車の根幹部分以外の、ミラー・パワーウィンド・ドアロックなどのボディ系の制御に使用されています。
2.車載イーサネットの詳細
2-1車載イーサネットのメリット
①高速データ転送:
車載イーサネットは高速なデータ転送が可能な為、自動車内での情報の迅速な共有が可能です。例えば、複数のセンサやカメラからのデータをリアルタイムで処理し、運転支援システムやエンターテイメントシステムに反映させることができます。
②柔軟性と拡張性:
車載イーサネットは柔軟なネットワークトポロジーを提供し、必要に応じてシステムを拡張できます。これによって新しい機能やセンサの追加が比較的容易になります。
③信頼性:
車載イーサネットは信頼性の高い通信プロトコルを使用しており、データの正確性と安全性を確保することができます。これは、自動車の安全性や運転支援機能にとって極めて重要です。
④統合性:
車載イーサネットは、既存のイーサネット技術を活用しているため、既存のネットワークとの統合が容易に可能です。
2-2車載イーサネットのデメリット
①コスト:
イーサネットネットワークの導入には、新しいハードウェアやソフトウェアの開発、車両の設計変更などが必要となり、初期投資が必要です。また、既存のネットワーク技術との互換性を確保するためにコストがかかる場合もあります。
②電磁波干渉:
車載環境では、電磁波干渉が発生しやすいため、イーサネットの信号が妨害される可能性があります。これは、データの正確性や通信の安定性に影響を与える可能性があります。
2-3車載イーサネットスイッチ(Ethernet Switch)
車載イーサネットスイッチとは、ECUやセンサ・カメラ等とつながるための複数のPortを持ち、 それらと相互に接続することによってネットワークを構築するデバイスのことを言います。
相互接続のためにMACフレームを用いて通信、または転送制御し、自動車に求められる通信品質の確保が出来るよう設計されています。車載イーサネットスイッチはOSI参照モデルLayer 2の役割があり、車載Ethernet PHYに対して一つ上位のレイヤを扱います。
(*)MACフレーム:
イーサネット(Ethernet)において、端末間でやり取りされるデータに送信先アドレスなどの制御情報を付加したデータの送受信単位の事を言います。
イーサネットでは送りたいデータを決まった長さ(46~1500バイト)ごとに分割して、前後に制御情報を付加したイーサネットフレームを一単位として、連続した信号で送受信を行います。
(*)OSI参照モデル:
OSI参照モデルとは、コンピューターネットワークでの各通信機能の仕組みを7つの項目に分類したもので、各層での役割がそれぞれ異なっており、layer2では同一ネットワーク間でのデータ転送方式を決定します。
layer1では信号変換など物理的な機能を有します。
・車載イーサネットスイッチが扱う転送方式について
①ユニキャスト:
1台の宛先を指定してデータ転送する方式。
②マルチキャスト:
複数の宛先を指定してデータ転送する方式。
③ブロードキャスト:
不特定多数(全宛先)にデータ転送する方式。
宛先MACアドレスがFF:FF:FF:FF:FF:FFの時に実行されます。
*MACアドレスとは、ネットワーク接続機器が持つ固有の識別子(アドレス:宛先)です。
3.車載イーサネットケーブルでの電力供給
イーサネットケーブル経由でデバイスにDC電力を供給する技術としてPoE(Power of Ethernet)やPoDL(Power of Data Line)が挙げられます。
個別の電源やコンセントの使用なしでイーサネットケーブルのみで電力供給が可能となり、電力用電線が削減される事でケーブル自身の重量が低減するだけではなく、電磁干渉の低減やコネクタの削減による省スペースになるメリットもあります。さらにPSE・PDに接続されているインダクターで電流量を調整することで、周辺のセンサ等に適切な電圧供給が可能です。
(*)PSE(電源供給装置):
PSEは「Power Sourcing Equipment」の略であり、PoEにおいて電力を供給する側の給電機器の事を言います。
(*)PD(受電機器):
PDは「Powered Device」の略であり、PSEから電力の供給を受ける受電機器の事を言います。
3-1 PoE(Power of Ethernet)
PoE(Power of Ethernet)は、主に民生機器や産業機器で使用されています。IEEE802.3afの規格によって制定され、給電装置(PSE)および受電デバイス(PD)という2種類のPoEデバイスが定義されています。PSEでは、電力は装置自体の従来型の電源から供給されます。
PSEは、イーサネットケーブルネットワークでPDに伝送される電力を管理します。PDが必要とする電力はRJ45コネクタ経由で供給されるため、内蔵電源は必要ありません。PSEからPDに給電するケーブルを電源インターフェース(PI)といい、MDIと同義です。
モードによって、電源供給のペアケーブルが異なります。
3-2 PoDL(Power of Data Line)
PoDLは車載向けの技術で、IEEE802.3cgで制定されています。
PoEとPoDLの大きな違いは、電力供給する際に使用するツイストペアケーブルの本数です。PoE同様、データ送信に使用されるケーブルを使用して電力を供給が可能で、PoDLでは1本のツイストペアケーブルのみで電力供給が可能です。100BASE-T1、1000BASE-T1 や10BASE-T1S 、10BASE-T1Lに使用されます。