(英語表記:Supercomputer)科学技術計算用途で大規模で高速な計算能力をもっているコンピュータのことです。
1.スーパコンピュータの概要
スーパコンピュータとは科学技術計算を主目的とする大規模なコンピュータです。大規模で高速の計算能力を達成することを目的にしているために最適化したハードウエアとソフトウェアを用意しています。スーパコンピュータとは、プログラムにより汎用の計算能力を有する装置の事をいいます。高い計算の応力を持っている装置であっても目的が専用用途に限定される計算機は専用計算機に分類されます。
1-1 処理方法
スーパコンピュータが高速な処理ができる重要な特徴の一つは並列処理能力にあります。複数のプロセッサが同時に異なる計算を実行することで処理速度を向上させています。
・マルチプロセッサシステム:複数のCPUが協調しあって目的のタスクを処理します。
・マルチコアプロセッサ:一つのCPUに複数のコア(処理ユニット)が組み込まれており並列処理を実施しています。
1-2 通信速度
スーパコンピュータでは膨大なデータを高速に処理するために、高速かつ遅延の少ない通信処理ができるネットワークが必須となります。
・インターコネクト:プロセッサ間やプロセッサとメモリ間の通信を高速に実現するための専用ネットワークです。
・トポロジー:ノード(個々のコンピュータ)間の接続方法です。メッシュ・トーラス・ファットツリー等の種類があります。
1-3 メモリ構成
スーパコンピュータでは、効率的なデータアクセスが重要かつ必要です。このために複数のメモリ階層の構造になっています。
・レジスタ:CPU内部にあって最も高速なメモリです。
・キャッシュメモリ:CPUに近い高速メモリで、L1・L2・L3と呼ばれる階層になっています。
・メインメモリ(RAM):大容量のデータを格納できますが、キャッシュメモリよりは遅いです。
・ストレージ:データの長期保存などに使用されるこの中では最も遅いメモリになります。(HDDやSSDなど)
1-4 オペレーティングシステムとソフトウェア
スーパコンピュータにはそれ専用のオペレーティングシステムとソフトウェアが用意されています。
・オペレーティングシステム:スーパコンピュータ用に最適化されたLinuxベースのものが一般的です。
・ミドルウェア:並列計算を効率的に実行するためのソフトウェアです。MPU(Message Passing Interface)やOpenMPなどがあります。
・アプリケーションソフトウェア:科学計算やシミュレーション・人口知能・特定の目的に応じたプログラムです。
1-5 冷却システム
スーパコンピュータは大量の熱を発生しますので、冷却システムが重要となります。
・空冷:空気を使用した冷却方法です。
・水冷:水を使用した冷却方法でより効率的な熱放出が可能です。
・液体金属冷却:最も高度(効率の良い)冷却方法です。高い熱伝導率を持つ液体金属を使用します。
1-6 ストレージとデータ管理
大規模なデータを取り扱う為にスーパコンピュータには高速なストレージシステムが必要となります。
・並列ファイルシステム:多数のディスクを並列にアクセスすることで、高速なデータ読み書きを実現しています。
・データ管理ソフトウェア:大規模データの効率的な管理と解析をサポートしています。
2.スーパコンピュータの代表的な用途
2-1 科学研究とシミュレーション
スーパコンピュータは科学研究において重要な役割を果たしています。複雑なシミュレーションや解析を行う事で新しい知見の手助けをしてくれます。
・気象予測:大気の動きを詳細にシミュレートし、正確な天気予報や気象変動の予測を行ってくれます。
・天文学:宇宙の成り立ちやブラックホールの挙動・銀河宇宙の進化などのシミュレーションを行います。
・物理学:素粒子の相互作用や核融合など、実際に実験を行う事が難しい現象をスーパコンピュータ上でシミュレートを行います。
2-2 医療と生命科学
スーパコンピュータは医療や生命科学の分野でも活用されています。疾病の解析や新薬の開発非常に貢献しています。
・ゲノム解析:人間や他の生物のゲノムデータの解析を行い、遺伝的な情報の解析を行っています。
・薬物(新薬)設計:分子動力力学のシミュレーションを行い、新薬開発につながる化合物の設計を行います。
・タンパク質構造予測:タンパク質の三次元構造の予測しその機能や相互作用を解明します。
2-3 工学と産業
スーパコンピュータは製造業やエンジニアリングの分野でも重要なツールとなっています。 製品の設計や性能評価を行う際に使用されます。
・流体力学:航空機の空力特性や車両の空力抵抗をシミュレートします。
・材料科学:新しい材料の特性を予測して開発を支援します。
・電磁場解析:電子機器や通信機器の電磁場特性を解析します。
2-4 エネルギー
スーパコンピュータはエネルギーの分野では、エネルギーの効率的な利用や新しいエネルギー言の開発に貢献しています。
・石油 ガス探査:地質データを解析し資源の分布などの予測を行っています。
・再生可能エネルギー:風力や太陽光発電の効率を最大限活用するためのシミュレーションをおこないます。
・核融合研究:核融合反応のシミュレートを行い、実用化に向けた研究に用います。
2-5 人口知能と機械学習
スーパコンピュータは人口知能(AI)と機械学習の分野で、大量のデータを処理して高度なモデルをトレーニングするのに使用されています。
・ディープラーニング:大規模なニューラルネットワークのトレーニングを行い、画像認識や自然言語処理の精度を向上させます。
・強化学習:複雑なタスクを学習するためのシミュレーション環境を提供しています。
・データ解析:ビッグデータの解析を行い、パターンやトレンドを抽出します。
(*)機械学習:経験からの学習により自動で改善・学習するコンピューターアルゴリズムまたはその研究領域で人工知能(AI)を支える技術のひとつです。
2-6 国防と安全保障
スーパコンピュータは国防や安全保障の分野でも利用されています。複雑なシミュレーションやデータ解析を行い安全保障の向上に貢献しています。
・安全解析:高度な暗号を解析するために用いられます。
・シミュレーション:軍事シミュレーションを行い、戦略や戦術の評価などを行います。
・監視と情報解析:大量のデータを解析して潜在的な脅威の特定に用います。
3.スーパコンピュータの性能ランキング
2023年11月時点のランキングは次のとおりです。
・1位:米オークリッジ国立研究所とHPEの「Frontier」
1194.00PFLOPS(ペタフロップス)(毎秒119京4000兆回)
・2位:アルゴンヌ国立研究所とHPEの「Aurora」
585.34PFLOPS(ペタフロップス)(毎秒58京5000兆回)
・3位:マイクロソフト(Microsoft Azure)の「Eagle」
561.20PFLOPS(ペタフロップス)(毎秒56京1000兆回)
・4位:日本の理化学研究所と富士通の「富岳」
442.01PFLOPS(ペタフロップス)(毎秒44京2000兆回)
で日本の「富岳」は前回(2023年6月)の2位から4位と後退しました。
・5位:フィンランドの「LUMI」
379.70PFLOPS(ペタフロップス)(毎秒37京9700兆回)