産業用電子機器のカスタマイズ開発の流れと成功のポイント

はじめに

製造業における生産設備や制御機器の分野では、既製品の電子機器では十分に対応できない場面が少なくありません。例えば、製造ラインの特殊な環境条件や長期稼働を前提とした高い信頼性、あるいは独自のセンサーやモーターとの接続仕様などが挙げられます。こうした要求に応える手段として活用されるのが、産業用電子機器のカスタマイズ開発です。

カスタマイズ開発は、顧客ごとの課題に応じた柔軟な設計を可能にする一方で、コストや納期、技術的なハードルといった課題も抱えています。本コラムでは、産業用電子機器のカスタマイズ開発の全体的な流れを整理し、さらに開発を成功に導くための具体的なポイントについて解説します。


1. なぜカスタマイズ開発が求められるのか

1-1 既製品では満たせない要件

民生品や汎用品はコストパフォーマンスに優れる一方で、産業現場に必要な条件を満たせない場合が多々あります。例えば、

  • 高温多湿・粉塵環境でも安定稼働する耐環境性能
  • 長期的に同一仕様で使用できる供給保証
  • 特殊なセンサーや通信規格との接続対応
    といった点は、既製品だけでは解決が難しい領域です。

1-2 設備との最適統合

電子機器は単体で完結しません、必ず他の装置やシステムと連携して機能します。カスタマイズ設計によって、既存設備やシステムに合わせたシームレスな統合が可能となります。

1-3 ライフサイクルを通じた安定性

産業用機器は10年以上使用されるケースも珍しくありません。部品の供給終了(EOL)や規格変更に備え、長期安定稼働と調達計画を前提とした設計が求められます。


2. 産業用電子機器の開発フロー

ここからは、典型的なカスタマイズ開発のプロセスを順を追って解説します。

2-1 要件ヒアリングと仕様検討

最初のステップは顧客との綿密なヒアリングです。

  • どのような環境条件で使用するのか
  • 必要な機能・性能は何か
  • コストや納期の制約はどの程度か
  • 将来的な拡張や変更の可能性はあるか

この工程で要求仕様を十分に整理しておくことが、後の手戻り防止につながります。仕様が曖昧なまま設計を進めると、試作段階での不具合や追加工数が増加し、納期やコストに大きな影響を及ぼします。

2-2 基本設計と構想図の作成

次に、システム全体の構想の設計を行い図面化します。

  • 電気回路の大枠(アナログ回路、デジタル回路、電源回路など)
  • マイコンやFPGAなど制御デバイスの選定
  • 通信規格(Ethernet、CAN、RS-485 など)の対応
  • 筐体サイズや放熱方式の検討

この段階では「要求仕様をどう技術的に実現するか」を整理する工程であり、部品選定の妥当性やコスト見積もりにも直結します。

2-3 詳細設計と基板開発

基本設計をもとに、より具体的な設計に進みます。

  • 回路設計(信号品質やノイズ対策を考慮)
  • 基板レイアウト(熱設計・配線最適化)
  • ファームウェア開発(制御アルゴリズムや通信プロトコル対応)

ここで重要なのは「設計と実装を見据えた最適化」です。例えば、信号線の引き回しが長すぎるとノイズの影響を受けやすくなり、クロストークや誤作動の原因となります。また、放熱設計を怠れば、長期使用で部品寿命に影響が出ます。

2-4 試作と検証

試作段階では、単に「形を作る」だけでなく、実環境に近い条件での検証が不可欠です。

  • 機能テスト(要求仕様通りの動作をするか)
  • EMC試験(電磁両立性の確認)
  • 信頼性試験(温度サイクル試験、振動試験など)

試作は「失敗を洗い出すための場」と考えるべきです。問題点を早期に抽出し、設計へフィードバックすることで、量産時のリスクを最小化できます。

2-5  小ロット生産と量産準備

試作で課題が解決した後は、小ロットでの生産を行います。ここでは「量産性の検証」がポイントです。

  • 実際の生産設備での組立性
  • 部品調達の安定性
  • 品質検査工程の妥当性

これらをクリアして初めて量産体制に移行できます。

2-6 量産立ち上げと納入

最終工程は量産です。顧客への納入に加え、据付・アフターサービスも重要なフェーズとなります。さらに、量産後も部品のEOL情報や設計変更への対応が欠かせません。製品ライフサイクルを通じたサポート体制が求められます。


3. 開発で直面する代表的な課題

3-1 コスト増加の課題

カスタマイズ開発では、既製品と異なり特注部品や小ロット生産が必要になることが多く、部品単価や製造コストが上昇します。また、設計段階で追加機能や特殊仕様を組み込むと開発費も増える傾向があります。

  • 対策例部品代替案の検討、設計初期でコスト目標を明確化、小ロット生産を段階的に実施してリスク分散

3-2 納期リスク

特殊部品の調達や設計変更は、納期遅延の大きな要因になります。特に海外調達や人気部品の場合、リードタイムの長期化や欠品リスクがあります。

  • 対策例:早期に部品調達計画を立案、代替部品の候補リストを作成、サプライヤーとの密なコミュニケーション

3-3 技術的難易度の高さ

産業用電子機器は、単純な制御回路だけでなく、高精度のモーター制御やIoT通信、セキュリティ機能など高度な技術を求められる場合があります。これに対応するためには、設計者・制御技術者・ソフトウェア開発者間の密な連携が必要です。

  • 対策例:開発チーム内で仕様レビューを頻繁に実施、プロトタイプで早期検証を行う

3-4 信頼性確保の課題

産業用電子機器は長期稼働が前提です。熱や振動、電源ノイズなどによる故障リスクを設計段階で十分考慮しなければ、運用中に不具合が発生します。

  • 対策例:熱設計・放熱対策、部品定格の適正化、環境試験(温度サイクル・振動・湿度)を試作段階で実施

3-5 規格・法令対応の課題

産業用電子機器は、EMC規格や安全規格、産業特有の法規制に対応する必要があります。規格違反は量産後のリコールやトラブルにつながります。

  • 対策例:設計段階で規格チェックリストを作成、第三者試験機関での事前評価

3-6 将来変更・拡張への対応

顧客設備やシステムは長期間稼働するため、将来的な仕様変更や拡張に備えた設計が求められます。基板設計や通信仕様を柔軟にしておくことが重要です。

  • 対策例:モジュール設計、ファームウェア更新可能な構造、IOポートの余裕設計

4. 開発を成功に導くポイント

4-1 初期段階での仕様確定

後工程での仕様変更は大幅な遅延・コスト増加につながります。初期段階で顧客と十分に認識を合わせ、要件を確定することが最重要です。

4-2 試作段階での徹底した評価

試作を軽視すると、量産移行時に想定外の不具合が発生します。実際の使用環境に近い条件での試験を行い、課題を早期に発見することが成功の鍵です。

4-3 調達・設計・製造の一体化

電子機器開発では、設計・調達・製造が密接に関わります。特に電子部品の供給リスクは近年深刻化しており、調達担当と設計担当が初期段階から連携することが不可欠です。

4-4 長期供給を見据えた設計

産業用電子機器は長期稼働が前提のため、部品のライフサイクル管理を組み込んだ設計が求められます。代替部品の候補を検討しておくことも有効です。


5. 東阪電子機器の取り組み事例

当社では、電子部品の調達から設計・製造・販売までを一貫対応できる体制を整えています。これにより、

  • 部品調達のリスクを事前に把握し、適切な代替案を提示
  • 設計段階から量産性を考慮した基板設計
  • 小ロット試作から量産立ち上げまでのスムーズな移行
    を実現しています。

過去の事例では、特殊センサーを搭載した制御基板の開発において、既製品では対応できなかった通信方式をカスタム実装し、顧客のライン自動化を成功に導いたケースもあります。こうした取り組みは「現場に寄り添った開発体制」があって初めて実現できるものです。


まとめ

産業用電子機器のカスタマイズ開発は、要求仕様が多岐にわたり、課題も複雑です。しかし、開発フローを適切に進めることと、初期段階での仕様確定・試作評価の徹底・調達と設計の連携といった成功要因を押さえることで、コストと品質を両立した開発が可能になります。

東阪電子機器株式会社では、長年培った調達力と設計・製造ノウハウを活かし、お客様の要望に合わせたカスタマイズ開発を支援しています。産業用電子機器の開発に課題をお持ちの方は、ぜひ当社までご相談ください。

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