~構造・特徴・用途から見るモーター制御の最前線~

モーターは、私たちの生活や産業活動のあらゆる場面で欠かせない存在です。
近年では、工場の自動化(FA)やロボット制御、EV(電気自動車)、空調機器など、より高効率で静音性に優れたモーター制御が求められています。
その中でも、「ブラシレスモーター」は従来型のブラシ付きモーターに代わる次世代モーターとして急速に普及しています。
本記事では、ブラシレスモーターとは何か、ブラシ付きモーターとの構造的な違い、さらに用途別の選定ポイントについて詳しく解説します。
1.ブラシレスモーターとは
ブラシレスモーター(Brushless DC Motor:BLDCモーター)とは、その名のとおり「ブラシを持たない直流モーター」です。
従来のブラシ付きモーターでは、整流子とブラシの接点によって電流を切り替えますが、ブラシレスモーターでは電子回路(ドライバIC)による電子整流でこれを行います。
1-1.構造の基本
ブラシレスモーターは以下のような構造で構成されています。
- ステーター(固定子):電磁コイルを配置し、電流の切り替えによって磁界を生成。
- ローター(回転子):永久磁石を内蔵し、ステーターの磁界によって回転。
- センサー(ホール素子など):ローターの位置を検知し、電子制御にフィードバック。
このように、ブラシレスモーターでは物理的な接点を持たずに磁界を制御するため、摩耗が発生せず長寿命という大きな利点があります。
1-2.動作原理
センサーでローターの位置を検出し、制御回路がコイルへの通電タイミングを制御します。
これにより、常にローターが最適な方向に引き寄せられ、滑らかで高効率な回転を実現します。
近年では、センサーを用いない「センサレス制御」も普及しており、コスト削減と小型化が進んでいます。
2.ブラシレスモーターの主な特徴
ブラシレスモーター(BLDCモーター)は、従来のブラシ付きモーターに比べて多くの優れた特性を備えています。
その特徴を詳しく見ていきましょう。
2-1. 長寿命・高信頼性
ブラシレスモーター最大の利点は、摩耗部品であるブラシと整流子が存在しないことです。
ブラシ付きモーターでは、ブラシと整流子の接触によって電流を切り替えるため、摩耗やスパークが避けられず、定期的なメンテナンスや交換が必要でした。
一方、ブラシレスモーターは電子回路による非接触整流を行うため、接点の摩耗がなく、長期間安定した性能を維持できます。
また、接触摩耗がないことで粉塵の発生も抑えられるため、医療機器やクリーンルーム内設備など、清浄環境での使用にも適しています。
結果として、ブラシレスモーターは「メンテナンスフリー」「長寿命」「高信頼性」という3つの利点を兼ね備えています。
2-2. 高効率・省エネルギー
ブラシレスモーターは、通電タイミングを最適化できる電子制御方式により、高いエネルギー効率を実現します。
ブラシ付きモーターでは、ブラシの接触抵抗やスパーク損失が発生し、入力電力の一部が熱として失われていました。
これに対し、ブラシレスモーターは電子制御により磁界の向きを常に最適な角度に維持できるため、
トルク効率が高く、電力ロスを最小化できます。
また、効率の高さから発熱も少なく、モーター自体や周辺回路の冷却負担を軽減できる点も重要です。
この特性は、EVや空調機器、ポンプ、ファンなどの省エネ設計に大きく貢献しています。
2-3. 低ノイズ・低振動
ブラシレスモーターはブラシ接触がないため、スパークや摩擦音が発生しません。
加えて、電子制御による正確な電流波形の切り替えにより、回転トルクのムラ(トルクリップル)も低減されます。
結果として、静粛性と滑らかな回転特性を両立できる点が大きな特徴です。
この静音性は、**音響機器・医療装置・家庭用家電(エアコンや掃除機など)**で特に求められる要素です。
また、スパークが発生しないため、電磁ノイズ(EMI)も少なく、電子回路や通信機器への影響も抑えられます。
2-4. 高精度な制御性
ブラシレスモーターは、ローター位置を検出するホールセンサーやエンコーダを利用することで、
速度・位置・トルクをリアルタイムに制御できます。
これにより、たとえば次のような高度な制御が可能です。
- 速度制御:設定回転数を正確に維持(ファン、コンプレッサなど)
- トルク制御:負荷変動に応じた出力制御(ロボット、電動工具など)
- 位置制御:サーボ用途に対応(CNC機器、搬送装置など)
また、**ベクトル制御(FOC:Field Oriented Control)**のような高精度制御技術と組み合わせることで、
極めて滑らかでエネルギー効率の高い動作を実現できます。
このようにブラシレスモーターは、モーションコントロール分野の中核を担う技術となっています。

2-5. 高回転性能
ブラシレスモーターは構造上、ブラシ接触による摩擦や電気的スパークがないため、
機械的な制約を受けずに高速回転が可能です。
小型ファンモーターでは数万rpm(回転/分)に達することも珍しくなく、
産業用ではターボブロワ、スピンドル、遠心ポンプなど高速回転が必要な分野で幅広く活用されています。
さらに、電子制御により回転加速・減速の制御が容易なため、
応答性に優れたモーション制御にも適しています。
これにより、位置決め速度の短縮・装置のタクトタイム向上にも貢献します。
2-6. 幅広い用途展開
これらの特長により、ブラシレスモーターは次のような分野で採用が進んでいます。
| 分野 | 主な用途例 |
| 産業機器 | ロボット、工作機械、搬送装置、ポンプ、ファン |
| 自動車 | EV駆動モーター、電動パワーステアリング、冷却ファン |
| 医療機器 | 吸引ポンプ、遠心分離機、医療用ロボット |
| 家電 | エアコン、掃除機、冷蔵庫、ドラム式洗濯機 |
| 航空・ドローン | プロペラ駆動、姿勢制御用モーター |
このように、**「高効率・静音・高精度・長寿命」**という特性を活かして、
ブラシレスモーターはあらゆる分野のモーション制御に欠かせない存在となっています。
3.ブラシ付きモーターとは
一方、ブラシ付きモーター(Brushed DC Motor)は古くから使われてきたモーター形式で、構造が非常にシンプルです。
ブラシと整流子の接触により電流を切り替え、回転運動を生み出しています。
電源を直流で接続するだけで動作するため、制御が容易でコストも低いのが特長です。
構造と仕組み
- ローター側に巻線と整流子を設け、ステーター側に永久磁石を配置。
- ブラシが整流子に接触し、電流方向を切り替えながら連続的に回転を維持。
主な特徴
- 構造が単純・低コスト
- 制御回路不要(直流電源で動作可能)
- 高い起動トルクを持つ
- 摩耗・ノイズ・スパークが発生しやすく、長寿命用途には不向き
ブラシと整流子が摩耗するため、定期的なメンテナンスが必要となりますが、簡易的な用途や短時間駆動では依然として根強い需要があります。
4.ブラシレスモーターとブラシ付きモーターの比較
| 比較項目 | ブラシ付きモーター | ブラシレスモーター |
| 整流方式 | 機械的(ブラシ+整流子) | 電子的(制御回路) |
| 寿命 | 短い(摩耗あり) | 長い(摩耗なし) |
| 騒音 | 大きい | 静か・低振動 |
| メンテナンス | 定期交換が必要 | ほぼ不要 |
| 効率 | 中程度 | 高効率・省エネ |
| 制御性 | シンプル | 高精度制御可能 |
| コスト | 低価格 | 高価(制御回路含む) |
| 主な用途 | 家電、玩具、小型機器など | 産業機器、EV、FA機器など |
このように、ブラシ付きモーターはコストと簡便性に優れる一方、ブラシレスモーターは性能・信頼性・効率性で勝ります。
モーターを選定する際は、使用環境や寿命要件、制御レベルに応じて適切な方式を選ぶことが重要です。
5.用途別のモーター選定ポイント
5-1. コスト・簡易性を重視する場合
試作機や低価格帯の装置には、構造が単純なブラシ付きモーターが適しています。
電源をつなぐだけで動作するため、制御回路を持たない機器にも組み込みやすく、量産時のコストを抑えられます。
5-2 長寿命・信頼性を重視する場合
長時間稼働やメンテナンスが困難な装置には、ブラシレスモーターが最適です。
例えば、FAライン、冷却ファン、医療機器、EV駆動系など、安定した連続運転が求められる現場で広く採用されています。
5-3. 高精度制御を求める場合
位置制御や速度制御が必要な機器では、**ブラシレスモーター+制御基板(ドライバ)**の組み合わせが有効です。
センサー付きタイプでは、フィードバック制御により高精度なモーションコントロールが可能です。
5-4. 静音性・省エネ性を求める場合
家電や空調機器、ファン、ポンプなどでは、静音で高効率なブラシレスモーターが主流になっています。
最近ではインバータ制御と組み合わせ、最適な消費電力制御を行う設計も増えています。
6.進化するブラシレスモーター制御技術
ブラシレスモーターの発展は、「制御技術の進化」とともにあります。
近年は、以下のような最新技術が実用化されています。
- センサレス制御技術:センサーを使わずに電流波形からローター位置を推定し、低コスト化を実現。
- ベクトル制御(FOC):トルクと磁束を分離制御し、なめらかな回転と高効率化を両立。
- IoT連携モーター制御:通信機能付きドライバで状態監視や予知保全を実現。
- AI制御最適化:機器の使用状況に応じた自動チューニングによる省エネ運転。
これらの技術により、ブラシレスモーターは単なる「動力源」から、「スマート制御デバイス」へと進化を遂げつつあります。
まとめ:モーター制御の最適化で装置の価値を高める
| 選定基準 | 推奨モーター |
| コスト・簡易制御 | ブラシ付きモーター |
| 長寿命・高信頼性 | ブラシレスモーター |
| 静音・省エネ重視 | ブラシレスモーター |
| 精密制御・高性能化 | ブラシレスモーター |
**ブラシレスモーターとは何か?**を理解し、ブラシ付きモーターとの違いを正しく把握することで、
製品設計やモーター制御の最適化が可能になります。
モーター制御技術は日々進化しており、最適な選択が製品の性能やコストに大きく影響します。
目的や使用環境に応じた正しいモーター選定が、結果として装置全体の信頼性と価値を高めることにつながります。
東阪電子機器株式会社のモーター制御サポート
東阪電子機器株式会社では、ブラシレスモーター制御基板やカスタムドライバの設計・製造を行っております。
お客様の装置に最適なモーター制御方式をご提案し、高効率・高信頼の電子機器開発をトータルで支援を行うことが可能です。
モーター選定、ノイズ対策、制御基板のカスタム開発など、長年経験を活かすことができます。「モーター制御の最適化」に関するご相談はぜひお気軽にお問い合わせください。
