接地(せっち)とは、電気機器の筐体・電線路の中性点・電子機器の基準電位配線などを電気伝導体で基準電位点に接続すること、またその基準電位点そのものを指します。本来は基準として大地を使用するため、この様な名称となっています。
1.接地線の概要
接地線とは、電気機器と大地間を接地するための電線の事を言います。
一般の家庭で良く見かけるものは、洗濯機や電子レンジの電源コードと一緒に付いている、緑色(黄色/緑)の線の事です。
電気は使い方を間違うと危険な物になります。発電所などで作っている何千・何万ボルトと聞けば危険だというのは想像が付くかと思いますが、実際には数十ボルトでも人の生命を奪う事になる事があります。ですから、電気機器を使用する際には「安全性」が大事になります。この時安全性を確保する一つが接地線(アース)です。電気機器と大地が電気的に接続されていれば、人間(人体)ではなく大地に電気が流れます。
言い換えると、人間の代わりに大地が感電してくれるという事になります。
以上が簡単な接地の概念になりますが、実際に接地を行うには、電気機器と大地を電気的に接続する必要があります、ここで使うのが接地線です。接地線を使用することにより、電気機器と大地を電気的に接続することが可能になります。
2.接地の種類について
2-1 保護接地
保護接地の目的は、人を感電する危険から守ることにあります。
電気機器や電子機器が故障などで漏電した場合に人がその機器に接触すると人を通して電気が流れてしまう感電事故を防ぐため、漏電した場合に備えてあらかじめ大地(地球)に電気が流れるように機器と大地(アース)をつないでおくことです。
(*)電気設備に関する技術基準を定める省令第十条に
「電気設備の必要な箇所には、異常時の電位上昇、高電圧の侵入等による感電、火災その他人体に危害を及ぼし、又は物件への損傷を与えるおそれがないよう、接地その他の適切な措置を講じなければならない。」と定められています。
2-2 機能接地
機能接地の目的は、機器自体の安定動作・故障防止です。
非線形負荷(コンピューター・制御回路などACーDC・DC-DC電源を内蔵する機器、トライアック・サイリスタ・PWM制御やインバーター制御など、パワー半導体により大電流を高速でスイッチング制御される機器)は、高調波を含むEMIと呼ばれる電磁波を大量に放出することがあります。
回路や線路から放出された電磁波は、金属フレーム・金属シャーシなどに誘導すると、そのエネルギーは電荷として残留(帯電)することがあります。帯電したエネルギーは、なんらかのきっかけ(電源スイッチのON―OFFなど)で瞬間的に放電すると、その機器が誤動作(例えば、勝手にコンピューターがシャットダウンや再起動をしたり、制御ができなくなり最大出力が連続したり、OFFしている機器が勝手に動作しだしたり、突然出力が半減するなど)することがあります。
また、放電規模によっては絶縁破壊を伴う大きなトラブルを発生する事があります。 これは素子の破壊や接点の焼損をもたらしたり、最悪の場合電気火災を引き起こすことがあります。また、帯電している金属部に人体が触れることで感電するケースもあります。尚、この放電によるトラブルはナノ秒からマイクロ秒の極めて短時間で発生する為、漏電遮断器・過電流遮断器・ヒューズ・専用設計の安全回路など、安全を守るための各機構は通常動作しません。
その負荷線路から漏れ出た電荷を帯電しないように、アース電流(リーク電流)として大地へ戻す為の制御されたリターンパスを機能接地と呼びます。
電磁シールドや静電シールドといった装置内部にある遮蔽は、接地された筐体に接続される必要があります。筐体が十分に大きければ自然放電も可能ですが、基本的に接地をしていない独立した導体は帯電状態が長期間続くことがあります。
医療機器ではこの対策が特に重要となります。制御回路は通常3Vから24Vまでの直流電圧で動作しますが、安定して動作をさせるには基準電位である 0ボルトが必要であります。機能接地することによりこの基準電位を得ることができます。単相機器の中性線(ニュートラル)は負荷電流のリターンパスでありますが、同時に高調波及びコイルやコンデンサに残留する電荷のリターンパスにもなっており一種の機能接地として働いている一面があります。
直流制御回路の機能接地をAC100Vの接地側であるニュートラルに接続するように回路設計をおこなうばあいもあります。ただしこの場合、活線とニュートラルが入れ替わってしまう可能性がある日本の無極性プラグでは成立が難しいです。 尚、保護接地を必要としないクラスⅡの2重絶縁機器でもEMI対策の為に機能接地が必要となるケースがあります。現代の電気機器設計において、これらEMC対策は避けられないものになっています。
*)無極性プラグ:よく普段見かける2極のプラグのことです。
3.一般家庭で使用される電気機器の接地
一般家庭で使用される特に水回りの電気機器は、人がよく接触(手などに触れる機会)するため、漏電などによる感電防止のために人体保護用の接地電線を取り付ける必要があります。接地電線の被覆は緑色に黄色の細線が入ったものと、黄色に緑色の細線が入ったものとがります。配線用差込接続器(コンセント)に接地電極がない場合は新たに設置する必要があります。
水や汗で濡れた人体は非常に感電し易い状態にあるため、機器の劣化や故障による僅かな漏れ電流(漏電電流)であっても人体に流さないようにする目的で、濡れた手で操作する若しくは濡れた体が接触する可能性がある機器はアース接続を強くお勧めします。 乾燥した皮膚は交流100V程度の電圧ではあまり電流を流さない程度の抵抗値を持っていますが(とはいっても素手で電線を触る事はしない様に<危険です>)、水に濡れると途端に抵抗値が低下して電流が流れ出すため非常に危険です。たとえ濡れていなくとも、大きな電圧がかかれば電流は流れやすくなり、感電の危険性は高くなります。感電経路にもよりますが床や壁が濡れていたり、導電性の高い粉末等が付着していると一層に大きな電流が流れやすくなります。
昔の水道管には導体である鉛管が使われていましたので、その幹線が地中に埋まっていることを利用して蛇口へ洗濯機などのアース線を接続することがよく行われていました。しかし、現在では住宅工事などで使用される水道管は室内の露出部分が金属でも、その住宅内部の水道配管の材質が不導体(絶縁物)である架橋ポリエチレン製になっているため、水道管にはアースとしての機能はしません。
『電気設備の技術基準の解釈』第18条・第19条にあった「金属製水道管を利用した接地工事」の規定についても平成25年5月20日付改正で削除されています。また、金属管であるからといってアースを水道管に接続すると、その漏洩電流により配管の腐食(電蝕)を誘発する可能性があるので避けた方が良いです。接地目的のためには、適切に施工された接地ターミナル付のコンセントにアース線を接続する様にするべきです。
ただし、ガス管は金属製ですが引火・爆発事故のおそれがあり非常に危険ですので、絶対にガス管のご利用は行わない様にして下さい。
洗濯機やエアコンを購入すると、付属品としてアース線・アース棒が同梱されていることがありますが、場合に寄っては工事を行うのに資格が必要となる場合や適切な工事をおこなわないと危険な事がありますので注意が必要です。