プリント基板に電子部品を実装するにおいて、静電気は非常に重要な問題点です。今回はその内容について説明致します。
1.静電気放電(ESD)の影響について
静電気放電(ESD)とは物体間で電荷が急激に移動する現象の事です。皆さんが日常生活で経験される静電気ショックと同じ原理です。しかし電子部品にとっては極めて有害な事になります。静電気放電(ESD)による放電は非常に短い時間で発生しますが、その時には数百ボルトから数千ボルトに達する電圧が印加することがあります。
1-1 電子部品の破損
半導体デバイスや集積回路(IC)は非常に繊細な構造で構成されています、数十ボルトの静電気でも破損に至る可能性があります。静電気放電(ESD)による過大な電圧が半導体の内部回路を破損し、その電子分部品が完全に動作不良を起こすことがあります。
1-2 性能劣化
静電気放電(ESD)が原因で実装している電子部品が性能劣化に至る場合があります。電子部品は一見正常に動作している様に見えても、内部の繊細な回路構成が部分的なダメージを受けて、時間経過とともに性能が劣化することがあります。
1-3 潜在的な故障(ラッチアップ)
静電気放電(ESD)によって半導体内部に過大な電流が流れることでそのデバイスが「ラッチアップ」と呼ばれる状態に陥ることがあります。このラッチアップが発生しますとそのデバイスは、正常な動作をし続ける事が困難となり、電源を遮断するまでその状態が継続することがあります。さらに最悪の場合永久的にデバイスそのものが破損に至ることもあります。
1-4 回路基板全体への影響 一部の電子部品が静電気放電(ESD)によって破損に至りますと、基板上の他の部品や回路にも影響が及んでその基板全体の動作が不安定になる可能性があります。
2.静電気放電(ESD)の保護対策について
2-1 基板設計時のESD対策
基板設計の段階で、静電気放電(ESD)対策を施すことも可能です。静電気放電(ESD)保護ダイオードを実装したり、基板上の重要な個所をシールドしたりすることで、静電気の影響を軽減できます。
設計段階での対策も重要ではありますが設計段階での対策をやりすぎると冗長な回路になり本末転倒になる事がありますので、やはり次項の作業環境(作業者)の静電気放電(ESD)対策が重要かと思います。
2-2 作業環境の静電気放電(ESD)対策
①ESDマット(導電性マット)
電子部品の組み立てなどの作業台に敷かれるEDS対応マットは電子基板や部品を置いた際に静電気の発生を抑制するためのものです。このESDマットは導電性素材でできており、大地(アース)に接続して使用します。
②作業環境の湿度管理
低湿度の環境では静電気が発生しやすいので作業環境の湿度を適切に管理することも大切です。湿度が40%~60%に保たれていると静電気の発生が押させられます。静電気そのものが発生しないようにすることも重要な事です。
湿度管理は温度管理に比べて難しいことかと思いますが作業現場の湿度(温度)を定期的に測定し記録(表示)することで作業者が湿度を意識することも予防になることもあります。
2-3 作業者の静電気放電(ESD)対策
①ESDストラップの使用
作業者が手首などにつけるESDストラップ(アースバンド)は作業者の体に蓄積(帯電)した静電気を大地(アース)に逃がします。これによって基板や部品に触れた際に静電気放電の発生を抑制します。
②ESDガーメント(静電気対策服)
静電気が発生しにくい特殊な素材で作られた衣服を着用することによって作業者の動作により発生する静電気の発生を抑制します。
③ESDシューズやESDフロアマット
作業者が立っている場所にも静電気は蓄積する可能性がありますので、EDS対策シューズやESD対策フロアマットを使用して作業者に帯電した静電気を大地(アース)に逃がすようにします。
2-4 ESD保護袋の使用
・電子部品(製品)の保護・輸送時の保護
ESDに敏感な部品や完成した基板は、導電性または静電気拡張性のあるESD保護袋で保管・輸送することで外部からの静電気の影響を防ぎます。
3.静電気放電(ESD)保護機器などの定期的なメンテナンス
3-1 ESDストラップ(アースバンド)のメンテナンス
①導通テスト
ESDストラップ(アースバンド)自体の導通を定期的にテストします。これはストラップが作業者と大地(アース)との間で静電気を確実に逃がすことができるのかを確認する必要があります。導通が正常でなければストラップが劣化している可能性がありますので修理または交換を行います。(使用開始前に毎回実施など)
②ストラップの状態チェック
ストラップのバンド部分などが劣化していないか、裂け目や接触不良が無いかを確認します。ストラップが破損していると正常に静電気を作業者の体から大地(アース)へ逃がせない可能性があります。(使用開始前に毎回実施など)
3-2 ESDマットのメンテナンス
①抵抗値の測定
ESDマットの表面抵抗を定期的に測定し、規定の範囲内に収まっているかを確認します。通常ESDマットの抵抗値は1MΩ~10GΩの範囲内が正常と言われています。抵抗値が規定値の範囲外であればマットの交換が必要となります。(毎年又は半年毎の定期確認など)
②清掃
ESDマットは表面にほこりやよごれが溜まると静電気を逃がす性能が低下するがありますので、定期的にEDS対応のクリーナなどを使用してマットを清掃します。通常の洗剤や化学薬品を使用するとESDマットが損傷する可能性がありますので、専用のクリーナを使用します。(使用開始前、適宜など)
3-3 ESDフロアマットとESDシューズのメンテナンス
①接地の確認
ESDフロアマットが適切に接地されているか確認します。接地が不十分だと静電気を効率的に逃がすことができません。
②ESDシューズの抵抗値測定
ESDシューズの抵抗値を測定し、規定値範囲内(通常は100kΩ~100MΩ)にあるかを確認します。シューズが劣化していると静電気を逃がすことができずに作業者に蓄電する可能性が発生します。(作業前など)
3-4 ESD保護袋のチェック
①物理的な損傷の確認
ESD保護袋に穴や裂け目が無いかを確認します。袋が損傷している場合静電気の防御効果が失われる可能性がありますので交換または使用をやめます。
②袋の導電性確認
保護袋の導電性または静電気拡散性能を確認します。使用回数や時間の経過とともに性能が劣化することがありますので定期的なチェックが必要です。
・俗にいうプチプチ(EDS対応品)を使用する場合は基本的に使いまわすことは無いことが前提ですので、このような確認は不要となります。
4.静電気の発生のメカニズムについて
4-1 摩擦による静電気の発生
異なる物質がお互いに摩擦することで、電子が一方の物質から他方の物質に移動します。例えば毛布や衣類を擦った時に静電気が発生するのはこのためです。物質間で電子が移動したことによって一方は電子を失い正電荷を帯びます、もう一方は電子を得て負電荷を帯びます。
4-2 接触と分離による静電気の発生
異なる物質が接触した後に分離する時に電子が移動することがあります。たとえばプラスチックのシートをガラスから剥がすと、静電気が発生することがあります。この時プラスチックとガラスの間で電子が移動しどちらか一方が静電気を帯びます。
4-3 誘導による静電気の発生
帯電した物体が近くにあると、他の物体の内部で電荷の再配布が起こります。たとえば、プラスチックの下敷きを人の頭に近づけると髪の毛が下敷きに引き寄せられる現象がこれに相当します。この時下敷きの負電荷が髪の毛の正電荷を引き寄せ髪の毛が立ち上がるのです。
※まとめ
静電気はひとが動くだけ、物を動かすだけで発生することがありますので。電子機器・電子基板・電子部品を取り扱うときはどのような時でも決められた静電気対策を行う事が大切な事です。