
現代社会において、モーターはあらゆる場面で使用されています。工場の生産ラインや家電製品、自動車、さらには医療機器に至るまで、その動力源として活躍しているのが電動モーターです。そして、これらのモーターの動作を的確に制御するために不可欠なのが「モーター制御技術」です。
今回のコラムでは、モーター制御技術の基本的な役割に触れたうえで、さまざまな応用分野を具体的に紹介し、その技術的な特性や、今後の発展可能性についても展望します。
1.モーター制御技術とは
1-1 モーター制御技術の定義
モーター制御技術とは、電動モーターの回転速度・回転角度・トルク(力の大きさ)を目的に応じて自在に操る技術を指します。単にモーターを回すだけではなく、要求される動作に合わせて正確・効率的・安定的に制御することが求められます。家電から産業機械、自動車、ロボットに至るまで幅広く利用されており、現代の産業社会を支える基盤技術のひとつです。
1-2 モーター制御の基本原理
モーター制御は大きく分けて開ループ制御と閉ループ制御があります。
①開ループ制御(オープンループ制御)
センサを用いず、入力信号の大きさによってモーターを制御する方式です。ステッピングモーター駆動などに利用され、構造が簡単で安価ですが、外乱や負荷変動に弱いという課題があります。
②閉ループ制御(フィードバック制御)
エンコーダやセンサを用いてモーターの実際の回転状態を検出し、目標値との差を補正する方式です。サーボモーター制御に代表され、高精度な速度・位置決め制御が可能です。ロボットや工作機械など高い精度が要求される分野で用いられます。

1-3 主な制御方式
モーター制御では以下の方式がよく使われます。
- V/F制御:インバータを用いて電圧と周波数の比率を一定に保つことで、モーターの速度を制御する方法でシンプルかつ汎用的な方式です。
- ベクトル制御(FOC:Field Oriented Control): モーターの磁界を数式モデルで分解して制御する高性能方式。ACサーボでの主流の方式です。
- ダイレクトトルク制御(DTC): トルクを直接演算・制御することで応答性を高める方式。高効率かつ精密な駆動が可能となります。
2.応用分野

産業用機械や自動化システムは、製造業の生産性と品質を支える中核的な存在です。その基盤を成しているのが「モーター制御技術」です。産業現場では多様なモーターが用いられており、それぞれの機械に求められる精度・速度・トルク・省エネルギー性能を実現するために高度な制御技術が不可欠です。以下では、その特徴と代表的な活用事例について詳しく見ていきます。
2-1 高精度な位置決め制御
産業用ロボットや半導体製造装置、工作機械などでは、サブミクロン単位の位置決めが求められます。
サーボモーターとエンコーダを組み合わせたフィードバック制御により、指令値と実際の位置を常に比較し、誤差を補正することで高精度な動作が可能となります。これにより、微細加工や電子部品の実装といった高度な製造工程が実現されます。
2-2 高速・高効率な搬送制御
自動倉庫やコンベヤシステムでは、大量の製品を効率よく搬送するためにインバータ制御によるACモーターの回転数制御が活用されています。負荷状況に応じて回転速度を柔軟に調整することで、省エネルギーとスムーズな搬送を両立させています。また、停止時の回生エネルギーを回収して再利用する仕組みも導入され、エネルギー効率の向上に寄与しています。
2-3 自動化システムにおける協調動作
近年の産業自動化システムでは、単体の機械だけでなく、複数のロボットや装置が連動して生産ライン全体を構成するケースが増えています。ここでは、複数モーターの同期制御技術が重要です。
たとえば包装機械や印刷機では、複数のロールやアームを同期させて動作させることで、ズレのない安定した製造工程を実現します。通信規格(EtherCATなど)と組み合わせた分散制御技術により、従来以上に柔軟かつ効率的な生産システムが構築可能となっています。

2-4 安全性と信頼性の確保
産業用機械では、安全性の確保もモーター制御技術の重要な役割です。非常停止時のブレーキ制御、トルク制限機能、異常検出時のフェールセーフ動作などが組み込まれています。これにより作業員の安全と設備の保護を両立させ、生産現場の安定稼働を実現しています。
2-5. 導入事例
- 自動車組立ライン:多関節ロボットがサーボ制御により溶接・組立を行い、高い精度と生産性を実現
- 食品加工機械:高速搬送コンベヤと同期する充填機構により、製品一つひとつを正確に包装
- 物流倉庫:インバータ制御モーターを用いた自動搬送車(AGV)が効率的に荷物を運搬
2-6 家電・家庭用機器
私たちの日常生活においても、モーター制御はあらゆる場面で使われています。エアコンや冷蔵庫、洗濯機、掃除機など、多くの家電製品にインバータ制御が導入され、省エネと静音性の両立が実現されています。
たとえば、洗濯機ではモーターの回転方向や速度を制御することで、洗い・すすぎ・脱水といった各工程を最適に動作させています。冷蔵庫ではコンプレッサーモーターの制御により、必要な冷却量だけを的確に供給することで、電力効率が飛躍的に向上しています。
2-7 自動車・モビリティ
自動車分野では、EV(電気自動車)やHEV(ハイブリッド車)の普及に伴い、モーター制御技術の重要性が急速に高まっています。駆動用モーターの制御はもちろんのこと、ステアリング(電動パワーステアリング)、ブレーキ制御(回生ブレーキ)、電動ポンプや冷却ファンの動作制御など、多岐にわたる部位でモーターが使用されています。
また、自動運転技術の進展とともに、車両制御に対する応答性や安全性の要求はさらに高まっており、精緻な制御アルゴリズムと信頼性の高いハードウェア構成が不可欠です。
2-8 医療機器・バイオテクノロジー
医療分野では、正確な位置制御や繊細な動作が求められる機器が多数存在します。たとえばMRI装置のベッド制御や、内視鏡の微細な駆動、手術支援ロボットの関節制御など、高度なモーター制御技術が活用されています。
近年は、ウェアラブル医療機器や自動注射器などの小型・低消費電力モーターの需要も拡大しており、バッテリー駆動を前提とした省電力設計も鍵となっています。
2-9 農業・建設機械
農業や建設分野でも、モーター制御によるスマート化が進んでいます。たとえば、自動運転トラクターやドローンによる播種・施肥作業では、正確な位置制御や速度制御が求められます。
建設機械においては、油圧制御から電動化への移行が進んでおり、排ガス規制対応や燃費改善、作業精度の向上に向けた取り組みが活発化しています。これに伴い、高出力かつ耐環境性に優れたモーターと制御ユニットの開発が求められています。
3.今後の展望と技術課題
- モーター制御技術は、今後ますます重要性を増していくと考えられます。特に以下のような分野での進展が期待されます
- IoTとの連携:遠隔監視や予防保全といった機能を取り入れたスマートモーター制御
- AIによる最適化:機械学習を用いた制御パラメータの自動調整や異常検出
- 省エネ・高効率化:エネルギーロスを最小限に抑える制御アルゴリズムの追求
一方で、制御精度と応答性の向上には高性能なプロセッサやセンサが必要となり、設計の複雑化やコストの問題が課題となります。また、安全性やEMC(電磁両立性)などへの配慮も重要です。
おわりに
モーター制御技術は、見えないところで私たちの生活を支え、産業の発展を牽引する極めて重要な要素です。制御の高度化が進むことで、より効率的で快適な社会の実現に貢献していくことでしょう。
私たち技術者・設計者は、この分野の進化を的確に捉え、用途に応じた最適なモーター制御ソリューションを提供していくことが求められています。今後の発展と応用拡大に、引き続き注目していきたいところです。