一般的に電子部品、とりわけ半導体部品は高温に弱いと言われています。温度が一定以上に高くなると性能(その半導体部品に求められる特性)が維持できなくなります。
1.接合温度(Tj)について
1-1 接合温度(Tj)について
接合温度(Tj)とは、半導体の接合部の温度(ジャンクション温度)のことになります。データシート等に記載されている、絶対最大定格に記載されている接合温度(Tj)はその半導体が許容できる接合部の最大値となります。
例としまして、ダイオードでは順方向電流(Ⅰf)が流れると、順方向電圧(Vf)による損失(Pd)が発生します。その時発生する熱で接合温度(Tj)が上昇します。
シリコン半導体の場合、接合温度(Tj)がおおよそ175℃を超えると、破壊する可能性があるため、データシートに記載されている接合温度(Tj)は150℃~175℃程度が一般的です。しかし、データシートに記載されている接合温度(Tj)の付近でダイオードを使用すると、信頼性が低下するため、接合温度(Tj)はデータシートに記載されている接合温度(Tj)の80%を超えないように設計(使用)することが多い様です。
1-2 接合温度(Tj)が高くなるとどうなる
接合温度が(Tj)が高くなると信頼性が低下すると先ほど述べましたが、具体的な症状といたしまして。
接合温度(Tj)が上昇すると、ダイオードの逆電流(Ir)が増加します。それによって、『接合温度(Tj)が増加→逆電流(Ir)が増加→損失(Pd)が増加→接合温度(Tj)さらに増加→逆電流(Ir)増加・・・・・』の繰り返しにより、温度上昇をおこし最悪の場合熱暴走を引き起こす場合もありますので注意が必要です。
2.保存温度(Tstg)について
データシートなどに記載されている保存温度(Tstg)とは、通電させない状態(動作させない状態)でダイオードなど半導体を安全に保存(又は輸送)できる状態の温度範囲のことを言います。
・保存温度は保存温度範囲等と記載されている事もあります。
・Tstgのstgは保存(storage)のstgとなっています。
・保存温度の英語表記は:【Storage Temperature】と表記されます。
保存温度範囲の英語表記は:【Storage Temperature Range】または【Range of storage temperature】と表記されます。
ダイオードや半導体などの接合温度(Tj)と保存温度(Tstg)は使用するダイオードや半導体などよって違いますので、各々のデータシートで確認下さい。
とあるダイオードメーカのデータシートには
・接合部温度(Tj):150℃
・保存温度範囲(Tstg):-55~+150℃
と記載があります。
このダイオードは、通電状態(動作)の時の接合温度(Tj)は150℃を超えてはいけません。また、通電していない状態(保存または運送)では―55℃~+150℃の範囲で保存または運送しないといけないです。
3.実際に使用する時の例
3-1 動作温度(最低温度)
先ほどはダイオードなど半導体の使用できる最高温度と保存温度についての説明をいたしました。
ダイオードなど半導体には【動作温度】:そのダイオードなど半導体が正常に動作可能な温度があります。
データシート等には【動作周囲温度(Min):-40℃】 等の表記になります。
これは正常に動作可能な最低温度です。
この最低温度とは周囲温度ではなくその部品(ダイオードなど半導体)そのものの温度です。
この温度以下ではその部品が正常に動作(動作しないまたは動作はするがおかしな動作をする可能性がある)しない温度です。
3-2 動作温度(最高温度)
ダイオードなど半導体のそのものの温度とは、ダイオードなど半導体の中に「Chip:その半導体そのもの」がはいっており、通常は樹脂などでモールドされています。
実際にはこのChipの温度が接合部温度(Tj)を超えない様にしないといけません。しかし、発熱源は「Chip」ですが実際に測定できる温度はそれを覆っている樹脂部分(図の様なダイオードでは放熱フィン部分)になります。したがって樹脂部分の温度が接合温度(Tj)になった時は実際の「Chip」の温度はさらに高い温度になっていますので。実際は樹脂部分(ケース温度)から間接的に「Chip」の接合部温度(Tj)を次の例の様に求めます。
この時使用するパラメータに「熱抵抗(Rth)」があります。
例:あるダイオードで
接合部温度(Tj):150℃ 【データシートより】
熱抵抗(Rth):25(℃/W) 【データシートより】
保存温度(Tstg):-55℃~+150℃【データシートより】
損失Pd :1(W) 【机上計算値又は実測にて測定値】
周囲温度Ta:45(℃) 【その時の周囲温度又は想定する周囲温度】
のとき接合部温度(Tj)は
接合部温度(Tj)=RthxPd+Ta
=25(℃/W)x1(W)+45(℃)=70(℃)
となりますので、データシートにて確認した 接合部温度(Tj):150℃より低いので問題ないと判断できます。
また動作していない状態(輸送時も含め)では -55℃~+150℃ の周囲温度で保存しないといけない事になります。
3-3 放熱フィンの使用
半導体の接合部温度(Tj)が許容値を超えると半導体が正常に動作しない又は破損する事を説明致しました。この接合部温度(Tj)を発熱しても許容値を超えない様に熱を逃がす(放熱)事をすればさらに大きなパワーを制御できる場合があります。
その時に使用するものが放熱フィンです。
写真の放熱フィンはパソコンなどで使用するCPU用放熱フィン(電動ファン付き)です。通常はここまで大型の放熱フィンは使用しませんが、このような放熱フィンを使用する事で、接合部温度(Tj)の温度上昇を抑える事で大きなパワーを制御する事ができます。
・半導体の発熱源である「Chip」から熱伝導により半導体のケースさらにケースと接している放熱フィンに熱が伝わる事で半導体の「Chip」の温度が下がります。
この時放熱フィンの熱を効率よく空気中に拡散(放熱)させるために
①熱伝導のよい材質:
銅は熱伝導が良く、放熱性が高い特徴がありますが、一般的にはアルミニウムが安価な事と重量が軽いことからアルミニウム製の放熱フィンが多い様です。
②効率のよい放熱の形状:
くし状のようなヒダの多い形状。
③電動ファンによる強制空冷など:
自然対流による自然空冷より放熱の効果の大きい電動ファン等で強制的に空気を対流させる方法もあります。
④接触面に放熱用コンパウンドの塗布:
接合面同士を密着させ熱伝導を良くするために専用のコンパウンド(通称:シリコンコンパウンド又はシリコングリス等と呼んでいます)を塗布します。
があげられます。
・重要な事なので追加でご説明いたします。発熱に関しのご説明でしたが半導体は接合部温度(Tj)を超えない様にすることが大切ですが、温度が接合部温度(Tj)を超えていないからと言っても今回のダイオードでは「先頭順サージ電流(Ⅰfms)」を超える電流をながしてはいけません。もっと大きな電流を流したい(大きなパワーを制御したい)場合はワンランク上の容量の素子(半導体)の選定を検討する必要があります。
まとめますと、
・半導体のなかの「Chip」の発熱をにがして温度を下げる工夫を(設計)をすること。
(*)先頭順サージ電流:短時間流す事ができる電流値。
これに対して、平均整流電流(Ⅰd)があります、これは接合部温度(Tj)を超えなければ連続して流す事ができる電流値の最大値の事です。
以上です。