インダクタンスとはコイルにおいて電流の変化が誘導起電力となって現れる性質のことをいいます。簡単に言うと交流回路の抵抗の様なもので、電流の変化が電磁誘導起電力によって現れる現象の事です。
1.インダクタ(コイル)について
インダクタは、電子部品の中の抵抗器(R)とコンデンサ(C)に並ぶ重要な受動部品で、コイルと呼ぶこともあります。一般にコイルは導線を巻いたもの全般を指し、その中で巻線が1つのものを特に近年はインダクタと呼ぶ傾向があります。(以下、コイルは省略してインダクタと言います)
インダクタのシンボルには通常「L」が使われます。この「L」は、電磁誘導に関する「レンツの法則」のレンツ(Lenz)に由来すると言われていますが、諸説があるようです。
(*)レンツの法則:何らかの原因によって誘導電流が発生する場合、電流の流れる方向は誘導電流の原因を妨げる方向と一致するというもの。例えばコイルに軸方向から棒磁石を近づけると誘導電流が流れる。コイルに電流が流れると磁場が生じるが、この磁場はレンツの法則が示唆する向き、すなわち棒磁石の接近を妨げる向きとなる。
簡単に言いますと、コイルに棒磁石が違づくと反発し、遠ざけると引き付けあう現象になります。
インダクタの基本的な構造は導線がコイル状に巻かれたもので、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換しインダクタ内部に蓄えることができます。蓄えられる磁気エネルギー量はインダクタのインダクタンスで決まり、単位はヘンリー(H)です。
2.インダクタの基本構造とインダクタンス
最も基本的なインダクタは導線をコイル状に巻いたもので、導線の両端が外部端子になっています。最近では、コアを用いてコアに導線を巻いたものが大半を占めています。
インダクタのインダクタンスは一般的に以下の式(1)で求める事が出来ます。
kμSN2
L = ―――― ・・・・式(1)
I
L:インダクタンス(H)
K:長岡係数
μ:コアの透磁率(H/m)
N:コイルの巻数(T:ターン)
S:コイルの断面積 (m2)
I:コイルの長さ(m)
(*)長岡係数:無限長ソレノイドのインダクタンスを求める公式により、有限長ソレノイドのインダクタンスを求められるようにした係数であり、物理学者の長岡半太郎氏によって提唱されたものです。
この式(1)からインダクタンスは、
①断面積Sを大きくする、
②巻数Nを増やす、(巻き数は2乗に比例しますので2倍にすると4倍になります)
③コアを入れて透磁率µを増す、
ことで大きくなることがわかります。(式の分子を大きくすればよいのは分かります)
近年ではこの透磁率μが大きな素材のコア(コイルを巻いている芯の様なものです。)が登場して小さくてもインダクタンスの大きなコイルが出てきています。 式(1)のμ以外のパラメータ(大きさなど)が同じでもμが100倍になればインダクタンスの容量は100倍になります。
逆を言えばインダクタンスの容量が同じであれば、μが100倍になればサイズが1/100になります。(単純にはいかなでしょうが)
3.インダクタの基本的原理
インダクタに直流電流を流した時は(図1)、電流の流れ始めに電流を妨げる方向に起電力が発生します。この性質を自己誘導作用と呼びます。つぎに直流電流が一定値に達することに伴い磁束の変化がなくなるため、起電力は発生しなくなり、電流の妨げがなくなる性質があります。
図1
インダクタに交流電源から交流電流を流した場合(図2)、電流が0から上昇する時は電流の変化率が最も大きいため電圧は大きくなります。電流の上昇速度が遅くなるに従い電圧は低下し、電流が最大になった時点で電圧はゼロとなります。
図2
次に、電流が最大値から下がりを始めると、マイナスの電圧が発生し始め、電流が0になった点で電圧は最低となります。ここで電圧と電流の波形を見ると、1/4遅い位相の起電力が発生することになります。
そのため直流電流に比べ、交流電流は通りにくくなります。さらに交流の周波数が一定の値を超えると、起電力によって常に電流が妨げられるようになり、電流は流れなくなります。よって交流電圧の周波数が高いほど流れにくくなります。
これをまとめますと
・電流を流すと磁力を発生させる
・磁界が変化すると電流が流れる
・直流は流れ易く交流は流れにくい
このような性質を利用して、色々な場面でインダクタは用いられています。
4.インダクタの役目
4-1電源回路での用途
インダクタは直流電流を通しやすいですが、交流電流を通しにくい性質があります。また交流電流を通す際にはその波を抑えて、より平滑な電流に変えて流す性質があります。このことから、インダクタは直流電流で動く電子回路の電源回路に使われます。
一般の電源は交流回路ですから、電子回路を動かすためには電流を整えるための平滑回路を通す必要があります。この平滑回路の中にインダクタが使用されるのです。また高周波の交流を通さない性質がノイズの除去にも役立ちます。電源回路に使われるインダクタは主にパワーインダクタやチョークコイルと呼ばれています。
4-2高周波回路での用途
高周波回路用のインダクタも、基本的な仕組みや考え方は電源回路用のインダクタと同様に考えます。しかし無線LANなどの通信用に多く使われる高周波回路では数10MHzから数GHzまでの高周波数帯域での使用ですので、このような回路では通常のインダクタは使用できません。そのために一般的なインダクタよりも性能(Q値:Quality factor)の高いインダクタを使用します。
理想的なインダクタはインダクタンスの機能のみを持つことですが、現実には内部や端子の抵抗があり、コイル同士がコンデンサの電極のような作用を持ってしまう分布容量(一種のコンデンサ形成されます)なども持ってしまいます。
コンデンサはインダクタとは逆で、直流電流を通さずに交流電流を通す性質を持っています。そのため周波数が低いうちはインダクタの性質が勝るのですが、ある一定の周波数を超えるとコンデンサとしての機能がインダクタの機能より勝ってしまい、インダクタとして使用することができなくなってしまうのです。
この逆転が起こる周波数を自己共振周波数と呼びます。自己共振周波数に近い周波数の電流が流れる際、インダクタ内のインダクタとしての性質とコンデンサとしての性質が、互いに打ち消し合う現象が発生します。そのためインダクタのインピーダンス(交流回路における抵抗値)が下がり、多くの電流が流れるようになります。この性質を利用し、高周波回路用のインダクタは、特定の周波数を持つ信号を取り出す目的で使用されています。
4-3 電源変圧用の用途
電柱などに設置されたトランス(変圧器)にもインダクタを利用しています。変圧用ではインダクタとは呼ばず、コイルと呼ぶことの方が多いです。コイルに交流電圧を加えると、中を流れる電流が変化するため磁力が変化する事による磁力によって周りのインダクタが影響を受け電圧が発生します。このような作用を「相互誘導」と呼ばれています。
トランスでは、巻き数の大きなコイルに電流を流して生み出した磁力の変化を、同じコイルに巻いた、違う巻き数のコイルが影響を受けることによって電圧を変換させ、電圧値を変化させています。
電源回路用に電圧を変換するだけでなく、中間周波信号を取り出す「IFT」のようにラジオや無線回路に使用されるものや、音声周波信号を変換する「オーディオトランス」などの種類があります。
(*)IFT:IFT(中間周波トランス)はラジオなどの電波をあつかう機器で使用する電子部品です。