温度ドリフトとは、様々な物体・装置やセンサー(部品)が時間とともに変化する温度によって受ける、機械的・電気的・化学的な変化(影響)の事を言います。
1.温度ドリフトの機械的な影響について
機器やワークなどは、温度が変化すると伸縮します(工業規格では20℃が基準しています)。 材質の違い、熱容量の違いで構造物の伸縮は時間差も含めると一概に熱膨張係数 (*) で計算は難しいそうです。
温度ドリフトが機械的に及ぼす影響について以下の内容があります。
(*)熱膨張係数
温度の上昇によって物体の長さ・体積が膨張(熱膨張)する割合を、単位温度当たりで示したものです。温度の逆数の次元を持ち、単位は毎ケルビン(記号:1/K)です。
1-1 寸法変化
温度が変化すると、物質は膨張または収縮します。これによって機械部品や構造物の寸法が微細な変化を起こす可能性があります。特に長い橋やレール、建築物などの大規模な構造物では、温度変化による寸法変化が問題となり、設計や保守に注意が必要となります。
1-2 ひずみ
温度変化により、材料はひずみを発生します。これは応力を生じ部品や構造物の強度に影響を与える可能性があります。ひずみが過度に大きい場合、部品の疲労や破損が発生することがあります。
1-3 接合(フィッティング)
機械的な部品が異なる材料で作られた場合、温度変化による熱膨張率の違いが問題となります。部品や構造物の接合部分に応力加わり、剥離やひび割れの原因となります。
1-4 機械的な応用への影響
温度ドリフトは、高精度の機械や精密機器の設計と運用に大きな影響を与えます。例えば、航空機・自動車・工場の機械・ロボットなど、温度変動の影響を受けやすいアプリケーションでは、温度ドリフトに対処するための設計と制御が必要です。
1-5 材料の選択
温度変動に対する耐性を持つ材料の選択は、機械設計において重要です。特に高温環境や低温環境での使用を前提とする場合には、適切な材料の選定が重要となります。
2.温度ドリフトの電気的な影響について
温度ドリフトは、電子デバイスや電気回路の動作における温度変化に対する感度を表します。温度が変化する事で、電子デバイスや電子回路の性能や特性が変化します。温度ドリフトが電気的に及ぼす影響について主に以下の内容があります。
2-1 抵抗器の抵抗値の変化
温度が上昇すると、一般的に抵抗器の抵抗値も上昇します。これは、抵抗材料の電気抵抗が温度に依存する性質に起因します。したがって、温度ドリフトは抵抗値の変化を引き起こし、回路の動作・特性に影響を与えます。特に高精度のアプリケーションでは、抵抗器の温度ドリフトに注意が必要です。
2-2 キャパシタンスの容量の変化
温度が変化すると、キャパシタンス(容量)も変化します。これは、絶縁材料の誘電体定数が温度に依存するためです。キャパシタンスの変化は、信号フィルタリングやタイミングアプリケーションなどで問題を引き起こすことがあります。
2-3 トランジスタの特性変化
温度変化は、トランジスタの特性にも影響を与えます。たとえば、バイポーラトランジスタのベース電流が温度に応じて変化し、増幅特性に影響を与えることがあります。また、フィールド効果トランジスタ(FET)のしきい値電圧も温度によって変化することがあります。
2-4 周波数安定度の影響
振動子回路やクロックジェネレータなどの高周波数アプリケーションでは、温度変化が周波数安定度に影響を与えることがあります。振動子の共振周波数や安定度は、温度ドリフトに敏感です。
2-5 センサーの出力への影響
温度ドリフトは、計測機器やセンサーの性能にも影響を及ぼします。例えば、温度センサーや圧力センサーなどのセンサーデバイスは、温度変化に対しての感度が高いことが多いので、センサーの温度ドリフトによる影響はセンサーからの信号の正確性に影響を与える可能性があります。
2-6 補償回路の必要性
温度ドリフトに対処するために、補償回路や温度補償アルゴリズムを使用することがあります。これらの回路やアルゴリズムは、温度変化による特性の変化を補正し、システムの安定性と性能を維持します。
したがって、温度ドリフトは電子デバイスや電子回路の設計と動作に重要な影響を与える要因の一つです。特に高精度や高安定性を要求されるアプリケーションでは、温度ドリフトの影響を評価し、それに対処するための設計対策が重要となります。
3.温度ドリフトによる影響の具体的な事例について
3-1 抵抗器
温度ドリフトが抵抗器に与える事例について説明します。
①抵抗値の変化:
温度が上昇すると、一般的に抵抗器の抵抗値は増加します。抵抗器の温度係数によって表現されます。温度係数は、抵抗値の温度変化率を示し、一般的にppm/℃(百万分率/摂氏度)で表されます。低い温度係数を持つ抵抗器は、温度ドリフトに対して安定性が高いと言えます。
②回路の正確性:
温度ドリフトの影響が大きい抵抗器を使用すると、回路の正確性に影響を与えることがあります。特に、高精度のアプリケーションでは、抵抗値の変化が許容範囲内に収まることが重要です。このため、温度ドリフト影響の低い抵抗器を選択することが必要となります。
③定格温度範囲:
抵抗器は通常、定格温度範囲内で最も安定して動作する様に設計されています。この範囲外で使用する場合、温度ドリフトが顕著になる可能性が大きいです。したがって、抵抗器の定格温度範囲内で使用する事で温度ドリフトは期待値内に収まります。
3-2 キャパシタンス
温度ドリフトがキャパシタンスに与える事例について説明します。
①容量値の変化:
温度が上昇すると、一般的にキャパシタンスの容量値は増加します。温度上昇に伴って電子部品の材料の物性が変化し、キャパシタンスのプレート間の絶縁体の誘電率が増加するためです。逆に、温度が下がると容量値は減少します。この容量値の変化は、キャパシタンスを用いた回路やセンサーの正確性に影響を与えます。
②周波数特性の変化:
温度による容量値の変化は、高周波信号やアナログ回路において特に重要となります。温度変化に伴う容量値の変動は、回路の周波数特性に影響を及ぼし、信号の歪みやフィルタリングの性能に問題を引き起こす可能性があります。
③定格温度範囲:
抵抗器と同様に、キャパシタンスも定格温度範囲内で最も安定して動作する様に設計されていますので、この範囲で使用する事で【容量の変化】や【周波数の変化】を設計値(期待値)内に収める事ができます。
3-3 近接センサ
温度ドリフトが近接センサに与える事例について説明します。
①温度による感度変化:
自動車の近接センサも温度ドリフトの影響を受けることがあります。自動車の近接センサは、例えば駐車時に障害物との距離を検出し適切な警告をドライバーに提供するために使用されます。しかし、車内や車体の温度が高温になると、センサの性能に影響を及ぼし誤った距離情報を提供する可能性があります。これは、駐車時に正確な距離情報が必要な場面で危険を引き起こす可能性がある事例です。
近接センサは一般的に赤外線を使って動作し、物体との距離を計測しています。しかし、温度の変化によってセンサの性能が変動することがあります。以下に、温度ドリフトがどのように影響を与えるかについて説明します。
近接センサは温度に敏感であり、温度が変化するとセンサの感度が変わることがあります。
②誤動作:
温度変化によってセンサが誤動作する可能性もあります。誤動作は先ほどの【温度変化による感度変化】と似ていますが違う現象です。センサが過度に反応する事で、本来そこに物体が存在しないのに存在すると判断したり、その逆で物体が存在するに存在しないと判断する事です。
③定格温度範囲:
抵抗器と同様に、近接センサも定格温度範囲内で最も安定して動作する様に設計されていますので、この範囲内で使用する事で【感度変化】や【誤動作】を設計値(期待値)内に収める事ができます。